――2015年9月30日水曜日


 大学三年生になり、いよいよ来年に控えた就活が現実味を帯びてきた。何がしたいとかそういうの、分からないのに。日々そんな緩やかなストレスと不安に煽られながら大学に通っている。
 秋紀は相変わらずバレー部の練習と授業に追われて忙しいらしい。それでも時間を作ってくれている。優しい、けど、たまにちょっとしんどく思うときもある。これが倦怠期というやつなのだろうか。付き合って三年目。そういうのがあっても変じゃないのかもしれない、けど。秋紀にそういう感じがこれっぽっちもないから、一人でなんだか肩身の狭い思いをしている。
 今日は秋紀の誕生日だ。秋紀に修正テープを踏ん付けられてから、もう五年が経ったのか。そう思うとなんだか感慨深い。あの出来事がなかったらわたしと秋紀は交わることなどなかったに違いない。秋紀からもらったあの修正テープは未だに捨てられないままとってある。でも、それは、なんとなく捨てづらいからなのかも、なんて思っている。
 秋紀は今日、部活があって会えない。今年まで毎年誕生日は会っていたから変な感じはする、けど、ほんの少しだけほっとしている自分がいる。やりたいことあるし、今日は一人の時間がほしい気分だった。最低だな、と一人でぼんやり思いながら大学を出て帰路についた。
 わたしって、秋紀のこと好きなのかな。ふとそんなことを考えてしまう瞬間がある。高校の卒業式で告白されたときも、自分ではよく分からないまま返事をしていた。もしかして流されているだけなんじゃないだろうか。手を繋ぐのも、キスをするのも、えっちをするのも、全然嫌じゃない。でも、嫌じゃないってだけで、好きではない、の、かな。
 そんなことない。絶対にない。わたし、流されて付き合うタイプじゃないし。一人で苦笑い。いろいろ不安が重なって疑心暗鬼になっているだけ。この不安はきっと、そのうち解消されるに違いない。
 スマホが震えた。立ち止まってポケットから出して見ると、秋紀からのライン。「今から試合」と来ていた。高校時代の同輩が相手だから燃える、と言っていたっけ。高校時代の同輩って誰のことだろう。名前さえも聞かなかったな、そういえば。
 昔からあまり人に興味が持てないタイプだった。高校も入学したてのときはつまんない、って思っていたし友達もそんなに多くなかった。ワイワイ楽しそうにしているグループを冷めた目で見ているような、ダサい学生だったな、そういえば。そんなわたしが秋紀と恋人だなんて、今更ながら信じられないな。
 秋紀には「試合頑張ってね。改めてだけどお誕生日おめでとう」と送り返しておく。秋紀からはかわいいスタンプがすぐに返ってきた。


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