真っ赤な顔とうるうると光る瞳がかわいいと思った。さらりと風に揺れる黒髪がわたしを誘うように艶めいては静かにきらめく。それをぼんやり眺めながら、小さく首を傾げてしまった。
 男子バレー部のマネージャーを三年務めて卒業を迎えた今日。わたしは部活での集まりを終えてそそくさと家路につこうとしていた。そんなところを呼び止めてきたのが、バレー部の後輩である五色だった。五色はわたしたち三年生みんなからかわいがられる後輩の代表格で、わたし自身も弟のように贔屓してしまった自覚がある。まあ三年の選手たちからは弟というよりは愛のあるムチを受けていた感じだけど。そういう姿もなんだかかわいくて、ついつい甘やかした自覚はあった。
 五色が大きな手でわたしの手をきゅっと握って、口をつぐんだ。言いたいことはすべて言ったからわたしの言葉を待っているのだろうとすぐに分かった。五色ってそういう顔もするんだ。かわいいね。内心でそう思いつつまた首を傾げてしまう。
 好きです、と振り絞った声で言われた。五色はわたしの顔を必死で見つめて、付き合ってください、と言ってきたのだ。わたし? 思わずそう聞き返しそうになったけどさすがに堪えた。好きです? 付き合ってください? いまいちピンと来ない。五色がわたしのことを好き? ちょっとそれは考えたことがなかったかな。そんなふうに他人事のように考えてしまった。
 五色は今後の白鳥沢を支えるエースになれるだろうとわたしは思う。かわいい後輩を贔屓していると思われてしまうかもしれないけど、きっとそれは他の三年生も一緒のはずだ。白鳥沢のエースになって、どんどん突き進んで、もっともっと大きな舞台に立つ日が来てもおかしくない。そんな選手だと思うのだ。それがなくても素直でとても良い子だし、何でも一生懸命取り組むことができる立派な子だ。それに相応しい相手が今後必ず訪れる。自分を卑下するわけではない。でも、二つ上の先輩って、なんか魅力的に見えがちじゃん。一年間選手とマネージャーという関係で深く関わったから、わたしのことが魅力的に見えてしまっただけだ。卒業していってしまえばそのうち目が覚める。そう思って「ごめんね」と声にした。
 わたしの返事に五色は下唇をぐっと噛んで少し俯いた。かわいい後輩として猫かわいがりしてきた身としては心が痛い。五色は良い子だから本気でわたしのことを好きだと勘違いしてしまっている。そうだとしたら、フラれて落ち込むんだろうなあ。ぼんやりそう思ったら、良いことを思いついた。どうせもう卒業してそうそう会えなくなる。嫌でも五色は勘違いに気が付くだろう。だから、この場だけ、切り抜ければ良いのだ。そう思って「でも」と笑いながら口を開いた。

「五色≠セし五年経ってもわたしのことが好きだったら付き合おっか」

 どうせ一年と持たない。ごろごろかわいい子やきれいな子が五色に近寄ってくるだろうから。わたしなんかそのうち忘れちゃうよ。口には出さなかったけどそう思いつつ。五色はわたしの手をぎゅっと握り直して「分かりました」と言った。素直な良い子。やっぱりかわいい後輩。卒業するのが寂しくなっちゃうよ。そう笑ったら、五色はなんだか悔しそうな顔をした。


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