来週に控えたクリスマスのため、まあ、一応気持ち程度のプレゼントを用意した。会社帰りに行ける限りのお店を回ったのだけど、結局一日では決まらなかった。どのお店もクリスマスプレゼント向けの商品を並べているのに、いまいち角名へのプレゼントとしてはしっくりこなかったのだ。いろいろ頭を悩ませてウンウン唸っていたら店員さんに声をかけられてしまって、照れながら彼氏へのプレゼントだと白状した。店員さんはにこりと笑って、彼女からもらうものならなんでも喜んでくれますよ、と定型文なみによく聞くことを言ってくれた。
 やたらと抱きつこうとしてくるし、柔らかいクッションでいいか。それ以外にピンとくるものがない。本当に気持ち程度だな、と自分で呆れてしまう。高校生じゃないんだから。そう思いつつも、一度手に取ったクッションを見てしまうと、それ以外に何も思い浮かばなかった。
 職場から自宅までの道のりでさえ、どことなく浮かれた緑色と赤色が目立つ。近くを歩いている女子高生が「もうすぐクリスマスやなー」と楽しそうにしているのが微笑ましい。そうだね、クリスマスは楽しいものだったね。みんなが浮かれて、笑って、夢を見ていい日だったよね。そんなふうに同意しておく。
 息を吐くと、ほんのり白くなってすぐに消えていく。冷たい風が吹いているけれど肌は痛くない。奥にある熱を優しく冷ましてくれる程度の冷たさは心地良い。呼吸をするたびに夢見心地な気分を少しだけ現実に引き戻してくれる。でも、夢よりも現実のほうが、正直今は好きかもしれない。そう感じるのは、わたしの胸につっかえていたものがなくなったから、なのだろう。
 恥ずかしいことに、毎日どこかのタイミングで角名の声を思い出すようになった。優しい声だったり、甘ったるい声だったり、ちょっとかすれた声だったり。いろんな声を思い出す。ふと隣にいる気がしてしまうこともあって、本当に恥ずかしい。
 高校生のときの角名のこともよく思い出す。本当にただの後輩として見ていたし、大人になってからも会っているなんて想像もしたことがない。せいぜい部活のみんなと飲み会をするときくらいしか会わない。そう思っていた。元々県外から来ていた角名とは縁が切れても不思議じゃない。同輩のみんなでさえ一か月に一度連絡を取れば多いほうなのだから。
 まさか、こうなるとは。一人で苦笑いをこぼす。高校生のときのわたしは当たり前にあの野郎と結婚している自分を想像していたし、捨てられるまでもそんな未来しか描いたことがなかった。他の彼氏ができることさえ想像したことがない。そんな想像をしなくていいほど、わたしは自分の人生に満足していたからだ。だから、角名という後輩の存在はどこにもいなかったというのに。
 やわらかな思い出にしてしまえば、それが跳ね返って攻撃してきても、痛くない。あの野郎と過ごした青春時代を忌々しい、思い出すだけで全身がぶん殴られるようなものとして思っていた。粉々に砕かれて、一生元に戻らなくて、あちこちに傷を作る。二度とあんな思いはしたくない。あんな記憶は全部捨ててしまいたい。そう思えば思うほどに、どんどん破片は鋭く硬くなってしまったのかもしれない。でも、今は違う。あのときはあのときで、楽しかったな。そう受け入れられた。
 ああ、認めざるを得ない。今、とてつもなく、角名に会いたい。気持ち程度のプレゼントであるクッションを見て、きっと角名は笑うだろう。なんですかこれ、なんて言って。どんな言葉でからかってくるのだろう。どんな顔でわたしを見るのだろう。その顔が早く見たい。そんなことを考えながら、夜空を見上げた。


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