黙々と食事を終え、また二人で向かい合う。 赤葦さんより先にわたしが話し始めると、赤葦さんはまっすぐにわたしの顔を見てくれた。

「正直に言ってショックでした。 嘘を吐かれていて」
「……すみません」
「赤葦さんとアプリで知り合って実際に会うまでにわたし、すごく勇気を出したんです。 こんな出会い方で男性と知り合うなんて、なんだか後ろめたくて」

 アプリをはじめた経緯を話した。 友達の勧めで一週間だけで良いと言われて、半ば強引にはじめることになったこと。 最初は乗り気じゃなかったこと。 ずっとアプリに対してネガティブなイメージがあったこと。 赤葦さんにいいねされる直前までもうやめようと思っていたこと。 赤葦さんに会う直前までこんな出会い方は不誠実なのではないかと思っていたこと。

「でも今は、たとえ人から不誠実だと言われても、赤葦さんと出会えてよかったと思っています」

 嘘を吐かれていた。 それは確かにショックだったのだけど、その嘘は決して悪意のあるものではなかった。 悪意がないから嘘を吐いていいとは思わない。 けれど、その嘘がなければ、赤葦さんとこうしてつながれなかったかもしれない。 年下だし真面目に相手をしてくれないだろうと偏見で見たかもしれない。 そうしたらわたしは赤葦さんにいいねを返さなかっただろう。 結果論になってしまうけれど赤葦さんが吐いた嘘は、赤葦さんにとってもわたしにとっても必要な嘘だったと思えるのだ。
 赤葦さんは驚いた顔をして固まっていた。 たぶん、突き放されると思っていたのだろう。 運命なんて一つもないから。 だけど赤葦さんがつないでくれたこの縁を、わたしはつかんでいたかった。

「赤葦さんさえよかったら、連絡先を、あの、交換しませんか」

 照れてしまった。 自分から男性にこんなことを言うのははじめてだったから。 わたしの言葉に余計に固まった赤葦さんはギギ、と音を立てそうなくらいの鈍い動きで口を開く。 「これからも、会ってくれますか」と自信なさそうな声で言う。 それが面白くてつい笑ってしまいつつ、「電車で見かけたら声かけてくださいね」と返した。 赤葦さんは大きく息を吐いてから「よかった、すみません、ありがとうございます」とほっとしたように言った。 スマホを取り出すとようやく笑って「もちろんです」と言ってくれた。
 そこから、また改めて自己紹介をしてもらった。 赤葦さんはわたしより二つ年下の二十六歳で、高校時代はバレーボールをしていたそうだ。 わたしでも聞いたことがある梟谷学園という強豪校でレギュラーを務めていたそうだ。 いま日本代表として活躍している木兎選手は高校の先輩で、今でも仲が良いと照れくさそうに言う。 けれど、テレビや雑誌の取材で勝手に自分の名前を出すのはやめてほしいと、困ったように呟いた。 この前会った先輩という人も部活での先輩だったそうだ。
 年齢とわたしと出会うきっかけ以外、赤葦さんは一つも嘘を吐いていなかった。 本当にきっかけを作るためだけの嘘だったと分かってほっとした。 赤葦さんは「嘘を吐いて、本当にすみません」と最後にもう一度謝ってくれる。 それから「もう本当に嘘は吐きません」とも言った。

さんが好きです」

top / 14