日曜日は一日頭を抱えて過ごした。 やっぱり分からない。 年下ではなく年上にサバを読む理由が。 若いほうがもっと若い子も誘えるし、おばさまからも人気が出るだろう。 わたしくらいの少し上の年代の女性からは遠慮されることもあるかもしれない。 けれど、男性からしてみれば女性は若ければ若いほど魅力的だというし。 メリットがよく分からない。 やっぱり、わたしの勘違いなのだろうか。 あの日聞いた名前は木兎選手と同じ名前などではなかったのかもしれない。 聞き間違い。 それが一番可能性が高かった。 けれど。 赤葦さんも赤葦さんに話しかけていた男性も、三十代には見えなかった。 二十六歳と二十七歳、そのほうがしっくりきた。
 赤葦さんへの返信は迷ったけれど「わたしも楽しかったです。 良ければまた誘ってください」と送った。 嘘を吐いているかもしれない、という可能性だけでさようならができるような、軽い気持ちじゃなくなっていたからだ。 メッセージのやり取りをしていたときよりももっと。 会って話して、いっしょに時間を過ごして、赤葦さんのことを好きになった。 たった一度会っただけなのに。 惚れっぽいと言われればそれまでだけれど、確かにわたしは赤葦さんを好きになっていたのだ。









 赤葦さんともう一度会うことになったのは、はじめて会ってから一週間後の土曜日だった。 水曜日に赤葦さんからお昼ごはんを食べないかと誘ってくれた。 うれしかった。 うれしかったけど、どこか胸の奥にもやもやとしたものが留まっている。 聞いてもいいだろうか。 嘘を吐いていませんか、と。 どうして嘘を吐いたのですか、と、聞いてもいいのだろうか。 けれど聞いたら嫌われてしまうかもしれない。 面倒がられるかもしれない。 勘違いだったら失礼すぎるし、なんと弁解すればいいのだろう。
 赤葦さんはわたしにとって理想の男性だった。 年上の男性のほうがいいな、と思っていた。 真面目で、穏やかな人がいいな、とも思っていた。 赤葦さんのような男性からいいねをもらえたことは奇跡だと、心から思っていたくらいだ。 会ってみて余計に理想のままだったから、もしかして運命かもしれない、なんてお花畑もいい加減にしろというくらい浮かれていた。 それが、突然の崩壊。 この人は嘘を吐いているかもしれない。 たったその一つの点がわたしのお花畑な思考回路をきれいさっぱり破壊してくれたのだった。
 優子に相談しようかと思ったけど、あんなに明るく送り出してくれた優子にそんなことを言えなかった。 まず、自分で確かめる。 どうしても行き詰まったら頼ろう。 心の中でそう決心する。 土曜日のことを聞かれた際にその疑念があることは言わなかった。 楽しかった、良い人だった、とだけ伝えている。 今度会う約束をしたことも言った。 優子からは「次は連絡先聞いちゃいなよ。 アプリもそれで消しちゃえるしさ」と言われている。
 そうだ、もし良い人でないと分かれば、連絡先も聞かずにアプリを消してしまえばいいんだ。 嘘を吐いているのなら理由を聞いて、その理由に納得できればこのまま好きでいればいいんだ。 運命なんて信じないで自分の判断だけを信じればいいんだ。 そうと決まれば、今度の土曜日が不安を抱えつつもまた待ち遠しくなる。 もやもやする時間は嫌いだ。 はっきりきっぱり、ちゃんと聞こう。
 その日は赤葦さんからいくつかお店の候補をメッセージでもらった。 行ってみたかったお店があったので、そこがいいと返してみたらすんなりOKをくれる。 場所が赤葦さんの家の最寄り駅からわたしの家の最寄り駅を経由し、その先にある駅だった。 現地集合ではなく、何時の電車の何号車に乗ったかで待ち合わせをすることにした。
 楽しみです、と返ってきたメッセージにわたしもそう返した。 楽しみであることに間違いはない。 わたしは嘘は吐いていない。 何一つ、嘘はない。 赤葦さんを好きでいたいと心から願うだけの時間だった。

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