「別れよう」

 まるで映画のワンシーンのように。まるでバッドエンドの小説の一節ように。そんな、激しく雨が降る夜だった。彼が持っていたビニール傘がぼつぼつと雨にぶつかって鈍い音を立てる。わたしたち以外誰もいない公園。わたしたち以外誰にも降り注いでいないように責め立てる雨。わたしたち以外、もう誰もここにいないんじゃないかと思うくらい、暗い夜だった。

「ごめん、

 うつむいた顔。男の子にしては長いまつげが少し揺れたように見えた。さらさらの髪が時折流れるように耳からするりと落ちる。それをかき上げて彼はようやくわたしの顔を見た。
 あ、泣きそう。
 不安そうに、悲しそうに、苦しそうに、彼の瞳は揺れていた。もうその表情だけで何を考えているのか分かってしまって、わたしはというと、なぜだか笑みがこぼれてしまった。いつもより少し距離を置いて立ち尽くしていた彼に一歩近づく。躊躇なく手を伸ばして頬に触れる。冷え切った肌はわたしが知っている体温ではなかった。

「うん、分かった。大会がんばってね」

 あなたへのありったけの恋心をこめた最後の笑顔は、なんとか成功したみたいだった。


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