「お願いだよ岩ちゃんもう俺たちあんなかわいそうなまっつんを見てらんないの!
ね!
お願いだってば!」
……などと気色悪い頼まれ方をし、仕方なく今なんと聞こうか悩んでいる。
まどろっこしい、気になることがあるなら自分で聞けよ松川。
いつもの俺ならふつうにそう松川に言っただろうが、あの様子を見ているとさすがの俺も口に出せなかった。
練習に支障が出ていないだけまだ松川は頑張っている。
及川はそう熱弁していた。
思い出すとなんかイラつくからこれ以上思い出すのはやめにした。
「で、次の練習試合は? 別にまだレギュラー落ちしたったわけじゃないだろ」 「そう思いたい……けど、正直分からなくて……たぶんわたしだとは思うけど……」 「監督だってが練習してるとこ見てんだし、実力は十分なんだからプレイ見て決めるだろ」 ここからどうやって松川の話に持ってけばいいんだよ。 こっちは真剣にバレーの話してんだよ、松川の入る隙間がねえよ。 つーか、松川とのことってそんなに聞かなきゃだめな話なのか? 本人たちの間でどうにかすることであって俺やクソ川が首を突っ込むところじゃないだろうが。 いろいろ考えつつも、ここで聞かないとクソ川がぎゃーぎゃーうるせえのは目に見えている。 めんどくせえ。 それだけは避けたい。 あいつ拗ねると面倒なんだよ、昔から。 「なあ」 「なに?」 「松川となんで別れたんだ?」 遠くのほうで聞き慣れた悲鳴が聞こえた気がする。 教室のドアのほうへ目を向けると、いつの間にか様子を見に来ていたらしい及川と花巻がいた。 あいつら、クソが。 様子見に来てやがる。 若干イラっとしたが無視することにした。 会話に混ざってこられると余計に面倒だし。 それはそうと。 は俺の顔をぽけっと見たまま固まっている。 目が丸くなっているからきっと驚いているのだろう。 まあ、俺がこんな話振るようなやつに思われていないのは百も承知な上に、俺だってクソ川に言われなきゃこんな話振らない。 「岩泉くん、変なものでも食べた……?」 「おい」 「ごめん、びっくりして」 が苦笑いをこぼす。 そりゃあ、まあ、そういう反応になるわな。 というかこの役割、俺がすんのやっぱ変だろ。 内心いろいろ思いつつも終わらせないと終わらない。 仕方なく「言いたくなきゃいいけど」と付け足しておく。 「い、言いたくない、というか……」 「なんだよ」 「……う……言いたくない、です……」 「よし、それならいい」 「良くなーーーーーい!!」 我慢ならず及川と花巻が突入してくる。 くそ、この話題これで終わったと思ったのに。 イラっとしつつにずんずん近付く及川を一発殴っておく。 「今殴られるべきは俺じゃなく岩ちゃんだからね?! 何あっさり諦めてんの?!」 「うるせえよクソ川」 「だから俺は岩泉には荷が重いって言っただろ〜」 花巻が俺の隣のやつの席に座る。 は困惑した様子で俺たちの会話を見ていたが、なんとなく事情は察しているようだった。 別に俺は松川なんざどうでもいいだろって言ってるわけじゃない。 二人のことは二人でどうにかしろ、とは若干思っている。 こうやって茶々を入れるのはどうかと思うし、松川は知らねえけどはそれを望んでいないと思う。 理由を言いたくないのならなおさらだ。 「理由だけでも! 松川一静にチャンスを!」 「ちょこちょこ会いに来られるのが鬱陶しかったとかあれば伝えるから! 直させるから!」 「え、ええ……?」 「おい、ビビってるぞ」 暴走している二人を止めつつ、なぜか俺がに謝る羽目になる。 は苦笑いをしながら「ううん、大丈夫」と言ったが明らかに困惑していた。 まさかただ別れただけでこんな大事になるとは思わなかったのだろう。 誰と誰が付き合おうが別れようが、一時期の話題になるだけで過ぎ去っていくのがふつうだ。 こんなふうに騒ぎ立てられるなんて同情する。 「な、直してほしいところなんて一つもないよ」 「え、そうなの?」 「うん。 松川くんは優しかったし、すごくいい人で……」 そこで言葉が止まる。 は少し恥ずかしそうに顔を赤らめて「な、なんかごめんね」と笑った。 まあ、うん。 正直知り合いのそういう話を聞くのは恥ずかしくなる。 いや、及川と花巻はそういうわけでもなさそうだけど。 は少し考えてから花巻の顔をじっと見た。 花巻が首を傾げるとちょっと迷いつつも「花巻くんって甘党?」と突然聞く。 「え? 甘党ですけども?」 「コーヒーにお砂糖、いくつ入れる?」 「角砂糖なら二つか三つ入れたいかな〜」 「いや、それ何の話……?」 及川が苦笑いしつつの顔を見ている。 突然話題を変えられて困惑しているのだろう。 順応性の高い花巻は「スティックシュガーなら絶対三本だな」と真剣に考えていた。 は「じゃあさ」と話を続ける。 「角砂糖、五つ入れて飲めって言われたらどう思う?」 「ええ、五つか〜。 まあ甘いけどギリ飲めるかなあ」 「じゃあ七つは?」 「そこまでいくとちょっとしんどいかも。 甘ったるすぎて。 いくら好きでも限度あるしね」 お前は何真剣に答えてんだよ。 及川も俺も若干呆れつつ花巻を見ていると、がちょっと笑った。 そうして一言「わたしも」とだけ言い、友達と約束があるからと教室から出て行ってしまった。 及川は「あ〜行っちゃった」と残念そうにしたが、花巻は黙ってが出て行った方向をじっと見ていた。 「え、マッキーの甘党話、今必要だった?」 「いや、ねえな」 「…………」 「マッキー?」 「俺、分かったかも」 そう言った花巻の顔がなぜだか赤くなっていて、俺も及川もあまりの気色悪さに言葉を失った。 |