「え、の様子?」
「そうそう。 なんか最近変だなーとかある?」

 女バレ三年で割と仲の良い水島と廊下で鉢合わせた。 ちょうどいい、と話を振ってみたらものすごく怪訝な顔をされたので少し失敗だったかと反省しているところだ。
 松川があまりにも落ち込んでいるので、ちょっと不憫になってしまっている。 及川といっしょに少しからかうくらいの雰囲気だったのに、松川があまりにもへこみ、落ち込み、ショックを受け、食欲もろくにないくらいのレベルで。 何人かがもこそこそと「松川どうした?」と俺に聞いてくる始末だ。

「な〜んで花巻がのこと聞いてくんのよ。 なんか企んでない?」
「ないですないです、誤解です」
「今大事な時期だから変なことしないでよね」

 大事な時期。 きっとそれはレギュラー争い関係のことだろう。 軽くそれに突っ込みを入れてみると水島はまたしても怪訝そうな顔で「野次馬気分だったらぶっ飛ばす」と前置きをして話してくれた。
 ここ最近、の様子が変だということに水島たち三年生は気が付いた。 一年生の上手いリベロのことでピリピリしているのかと思いきや、そういう感じではなかったらしい。 なんでも、逆に。

「なんかふにゃふにゃしててさ、最近」
「……ふにゃふにゃ?」
「なんか上の空っていうの? なんて言えばいいか分からないんだけどさ」

 ここ最近のはどうも、話しかけても反応が鈍かったり変に空回って笑っていたり。 何か別のことに意識が向いている、かと思いきやものすごい集中力で練習に励んでいるのだとか。 よく分からない違和感だけが三年生たちの中で感じられていて、なんと声をかけて良いのか分からないのだそうだ。 水島もその一人だそうで、と仲が良いだけに余計どうすればいいか分からないのだそうだ。

「悩みがあるなら言ってほしいんだけど、聞いていいのか分からないんだよね」
「あの〜、一つ聞いていい?」
「なによ」
「松川のことは? 何か聞いてる?」
「は? 松川が何?」
「え?」
「え、何よその反応」
「……え、もしかしてだけど、別れたの知らない?」
「………………別れた?!」

 知らないんかい! 水島は見たことがないくらい驚愕の表情を浮かべている。 本当に知らなかったようだ。 もちろん付き合いはじめたってことはは男子部はもちろん女子部もその噂で持ち切りだったから知っているのだが。 水島は俺を引っ張って人気のないところへ連れて行き、それでもなお小声で「嘘でしょ、それ本当?」と信じられない様子だ。 その反応に若干の違和感を覚える。 だって、高校生間の恋愛で付き合い始めただの別れただのはよくあることだ。 一年で別れるなんて別にそこまで驚くことじゃない。 いや、まあ、驚くことには驚くけど、今の水島くらい驚くことじゃないと思うのだ。 なんでこんなにめちゃくちゃ驚いてるんだ、水島は。 不思議に思って「驚きすぎだろ」とちょっと笑ってやったら、水島は「でも」となぜだか少し落ち込んだような顔をする。

、松川と付き合うってなったとき、あんなにうれしそうだったのに……」
「まあ……心変わりしたんじゃないの?」
「ないない。 だって、自分からはあんまり話さなかったけど、あたしらが聞くと松川のこと話してくれてたし。 つい三日前もそうだったよ」

 水島は「なんで別れたの? どっちから?」と逆に俺に質問をしてくる。 別れた理由は不明、フッたのはからだと伝えると水島は余計に驚く。 まさかから松川をフるなんて考えられない、と呟いて「そっか、そういうことだったのね」と俺が話しかけてきた理由を察したらしい。

「松川一静くん、ダメージでかすぎて見てられないんで何かあれば教えていただけると幸いです」
「そんなに? ……まあそっか、松川、時間あったらに会いに来てたしね〜」

 「見てて恥ずかしかったわ」と水島が笑う。 それはたしかに分かるかも。 松川も自分から話すことは滅多になかったけど、ちょっとからかい半分で聞くとこっちが恥ずかしくなるくらいのろけてきたっけ。 あのときの松川、幸せそうだったな……。 思い出すと余計に今の松川がかわいそうすぎる、やめよう。

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