※白布が前半ほとんどいない上に梟谷学園が舞台です。
※木兎たちが二年生のときを捏造しています。
※インハイ本戦の捏造有り。
※ギャグです。




ちゃん、またスマホと睨めっこしてる〜」

 梟谷学園に入学して、男子バレー部のマネージャーになった。はじめての夏合宿は思っていたよりハードだったけど、結構楽しく過ごせている。勇気を出してマネージャーをやってみてよかったな。そう思えるくらいに充実した毎日だ。
 二年生の先輩、雪絵先輩にそう笑われる。合宿中の梟谷学園男子バレー部はちょうど消灯時間前の自由時間を楽しんでいるところだ。わたしは広間にあるソファに雪絵先輩とかおり先輩に並んで座っておしゃべりを楽しんでいた。あと数十分で部屋に戻る、と時間を確認したところで鳴らないスマホを思い出してしまって。ついついスマホを睨み付けていたところを雪絵先輩に見つかった、というわけだった。

「例のケンジロウ≠ュんだ?」
「もう二日も既読スルーなので浮気してるかもしれないです。今すぐ宮城に帰りたいです」
「ケンジロウくんモテるんだっけ?」
「いえ、興味ない女は全員豆にしか見えてないタイプなんでモテないですね」
「じゃあ大丈夫だよ。忙しいんじゃない?」

 けらけらとかおり先輩が笑った。笑い事じゃないんです、本当に。賢二郎は連絡はマメじゃないしこのまま無視することもよくあるけど、今回の連絡はさすがに返してくれないと困るんです。夏休み中、二日間だけ宮城に帰るから会いたいな、って送ったんだもん。そうぶすくれてしまう。

「何の話?」
「ケンジロウくんの話〜」
「誰だよケンジロウ」

 二年生の木兎先輩が笑いながら雪絵先輩とかおり先輩に向かって首を傾げる。その後ろからやって来た木葉先輩と鷲尾先輩も同じように首を傾げた。「うちの部員にケンジロウっていたか?」と不思議そうに辺りを見渡す。それをかおり先輩が大笑いして「違う違う!」と言いながら、わたしの肩を軽く引き寄せた。

ちゃんの彼氏のこと」
「えっ、彼氏いんの?!」
「宮城在住の頭が良いしらす好きでソークールな彼氏がいます」
「聞いてないのにめちゃくちゃ情報くれた……ありがとな……」

 木兎先輩たちは「え、彼氏いるんだ……そっか……」と遠い目をする。雪絵先輩曰くバレー部は誰も恋人がいないらしい。ちょっと意外、と驚いたのははじめのうちだけ。部活中に馬鹿騒ぎしている姿を見ると「あ、モテないのかな」と妙に納得してしまったことを思い出す。良い人ばっかりなのにちょっともったいない。
 鷲尾先輩がふと「遠距離だな」と言った。そう、そうなんです! 遠距離なんです! そう拳を握りしめて訴えたら木葉先輩が笑って「いつから付き合ってんの?」と聞いてくれた。待ってました、賢二郎の話題! 会えない分賢二郎の話ができるだけでわたしは嬉しいです! そう前置きをすると木葉先輩は余計に笑ってくれた。

「中二からか〜。が引っ越すってなったら落ち込んでたんじゃないの? ケンジロウ」
「東京くらい別に遠くねえだろ、って言ってました」
「ケンジロウめちゃくちゃ漢だな」
「でも乙女心が分からないのでたまにポンコツです」
「急激に辛口だな?!」

 広間の入り口に赤葦の姿が見えた。それを見つけた木兎先輩が「あ、赤葦〜!」と手を振る。木兎先輩に気に入られている赤葦は「なんですか」と素直に近寄ってくる。「、彼氏いるんだって〜」と言われた赤葦は「はあ、そうですか」となんとも興味なさそうに言う。まあ普通の反応ですよね! 赤葦に前この話をしようとしたらめちゃくちゃ興味なさそうにされて悲しかったことを思い出す。わたしは赤葦に彼女ができたら惚気とかすごく聞きたいよ!

「ねーねー男子的には彼女からの連絡を無視する理由で考えられるのって何?」
「え、無視されてんの?」
「二日間既読スルーです」
「……ドンマイ!」
「木葉先輩ひどいです!!」
「もともと連絡遅いタイプなんでしょ?」
「まあそう思えば耐えられますけど……勉強と部活が忙しいのかなって納得させときます……」
「ケンジロウ何部なの?」
「え、バレー部ですよ」
「ちょっと待って、それは私たちも初耳なんだけど?!」

 あれ、言ってなかったっけ。そう自分でも驚きつつ「バレー部でセッターやってますよ」と説明しておいた。でもそれにかおり先輩が「でもちゃん、バレーのルール知らなかったよね?」と不思議そうに聞いてきた。そう。その通り。それには深いわけがある。
 中学生のとき、バレー部に入ったと賢二郎から聞いた。そのときはまだ付き合ってたわけじゃないけど、わたしは昔から賢二郎が好きだった。そのときの賢二郎がわたしをどう思っていたかは知らないけど、部活がない日は変わらず一緒に帰ってくれたし勉強も教えてくれていた。でも、断然時間は少なくなってしまって。なんとなくバレーに賢二郎を取られた気持ちになってしまったのだ。だから、意地でもバレーボールのルールを覚えたり誘われてもマネージャーをやってみようなんて思ったりしなかった。それから付き合うことになってもバレーボールに対する敵対心は変わらず。賢二郎もいつしか試合に誘ってこなくなった。と、いうのがわたしとバレーボールの前提。

「なんで高校からマネージャーやってみようかなってなったの? ケンジロウくんいないのに」
「悲しくて泣きそうになるので言わないでください……」
ちゃん、ケンジロウくんのことめちゃくちゃ好きだよね〜」

 賢二郎がいない教室。賢二郎と簡単に会えない東京という土地。そういうのを全身で浴びて、一瞬で寂しくなった。どこかに賢二郎の影がないかと探してももちろんあるわけがない。たまたまショッピングモールで見つけたしらすのストラップをスマホに付けて、それをじっと眺めるしかできない。賢二郎は県内有数の進学校でありバレー強豪校の白鳥沢学園に入学したこともあり、忙しくてなかなか構ってくれないし。寂しくて寂しくて、寂しさが振り切ってハッとした。そうじゃん、バレー部。東京にある賢二郎の面影はバレーボールだ。そう思ったらすぐにマネージャー志望で入部届を出していた。

「ちょっと待て、ケンジロウ白鳥沢なの?」
「そうですけど、え、知ってますか?」
「知ってるに決まってるだろ! ウシワカじゃん!」
「ウシワカ?」
「逆に知らねーのかよ?!」

 木兎先輩がウシワカという人について説明してくれる。なんでも全国レベルのすごいスパイカーだという。木兎先輩は今年からその名前を知ったそうだ。宮城にもすごい人がいるんだなあ。そうぼんやり思っていると、木葉先輩がスマホの画面を見せてくれた。高校バレーのネットニュース。白と紫のユニフォームを着た男の人の写真だ。「これがウシワカ」と言う。うしじまわかとし。へ〜。はじめて聞いたな〜。そんなリアクションをしていると木兎先輩がけらけら笑った。
 バレー部のマネージャーをやってみたら結構面白くて。間近で見るとすごく迫力があって、かっこいいなあと思った。それと同時に、なんでわたし中学のときバレー見に行かなかったのかな、ってすごく後悔した。賢二郎がバレーやってるとこ、見れば良かったな。それを同じポジションをやっている赤葦の自主練を手伝いながらぼけっと思ったりして。練習試合を見ているときも、賢二郎もあんな感じでボールを追うのかなって、うっかり考えたりした。

「ケンジロウにはマネージャーやってるって言ってあるのか? びっくりしてたんじゃない?」
「あ、全く言ってないです! 帰宅部って言ってあります!」
「なんでだよ?! 教えてやれよ〜」
「嫌です。恥ずかしいじゃないですか。賢二郎がやってるから興味あって、とか言うの」
「え〜そう言われたら嬉しいよな〜?!」
「嬉しい。俺この子と付き合ってマジよかった世界に感謝って思う。それで部活頑張れる」
「それに後悔することになると思うぞ?」
「え、なんでですか?」
「そのうち分かる」
「あ〜」
「たしかに〜いつかは分かる」
「え、何が? 何がですか?」





▽ ▲ ▽ ▲ ▽






――一年後、インターハイ本戦会場にて

 とんでもねえことになっちまいましたどうしましょう先輩! そう木兎さんに小声で話しかけたら「え、だから一年前に言ったじゃん〜」とこそこそ笑われる。赤葦がその後ろで「腹くくれ」と愉快そうに言うものだからムカついて脇腹を叩いておいた。
 インターハイ本戦、午後に試合を控えている梟谷学園は指定された観覧席に荷物を置きに来ている。わたしは地図とか文字の多いものを見るのがすごく苦手で、大会のパンフレットは見ないままここにやって来ている。場所はかおりちゃんに口頭で「南口のAブロックだよ〜」と教えてもらっていたから把握してるけど。でも、その周辺の学校がどこかなんていうのは一切気にしていなかった。

「うお〜近くで見るとウシワカめちゃくちゃ迫力あるな〜」
「それ木兎が言う?」

 通路を挟んだ真隣。白と紫のジャージ集団がすでに座っている。試合を見ている人もいればご飯を食べている人もいる。知っていた。インターハイ本戦に出場が決まったことは。予選決勝が終わったらしい日に賢二郎から「勝った」とラインが来ていたし、「お前の学校もインハイ本戦出場決まってたぞ」と教えてくれたから。知ってるよ、わたし、梟谷の予選全戦見てるからね!
 まずい、非常にまずい。後ろ姿ですぐに分かった。梟谷の待機ゾーンのすぐ隣、通路側に座っている賢二郎がいる。うわ、久しぶりに会えた! 嬉しい! なんて気持ちは微塵にも出てこない。やばい、まずい、困った。そればかりが頭に浮かんでいる。そんなわたしを横で見ているかおりちゃんがずっと笑いを堪えているものだから余計に困る。本当、本当に助けてください。

「え、どれがケンジロウくん?」
「かおりちゃんちょっとごめんなさい、シッ」
「どれどれ? ねえ赤葦、白鳥沢のセッターってどの子?」
「いや、セッターがどれかまでは分かんないですね。で、どれがケンジロウ?」
「赤葦シッ!!」

 いつか分かる、って、こういうことか! 一人で赤葦の後ろに隠れながら頭を抱える。こういうね! 全国大会でね! 鉢合わせるかもしれないよってことね! 白鳥沢は宮城の強豪校、梟谷は東京の強豪校。可能性は無限大ですよね確かに! 一年前の浅はか、というか馬鹿な自分に教えたい、こうなることを!
 昔からよく賢二郎に馬鹿だ馬鹿だと言われてたけど、今なら心から同意できる。わたしは馬鹿だ。ちゃんと言っておけば良かった。なんで帰宅部なんて嘘ついちゃったんだろ。今更「うっそでした〜! バレー部のマネージャーやってま〜す!」なんて言えるわけがない。
 これはバレないように隠れ続けるしかない。そう、賢二郎にさえバレなかったらいいんだから。バレなければわたしは賢二郎の試合を見られるしラッキーだ。そう無理やり前向きに考えることにした。そう。何事にも賢二郎にさえバレずに何事もなかったようにインハイが終わればオッケーなんだ。そうそう。大丈夫大丈夫。

「あ、いたいた。ちゃ〜ん! ちょっといい〜?!」
「ギャアア雪絵ちゃん! シッ! 静かに! 本当に静かに!!」

 振り返ると出入り口の近くで不思議そうな顔をしながら雪絵ちゃんが「え、ごめんね?」と首を傾げた。観覧席の通路にある階段を下りながら「部旗ってちゃん持ってるよね?」と聞かれる。業務連絡だった。それに異常に反応してしまって申し訳ない。あわあわしながら部旗を取り出すと、雪絵ちゃんが一年生の子たちに説明しながら去って行く。危なかった。名前を大きな声で呼ばれると聞かれる可能性があるから。そう胸を撫で下ろしていると、赤葦が「ああ、あれがケンジロウか」と呟いた。その隣でかおりちゃんも「確実にあれだねケンジロウくん」と言う。え、なんで? なんで賢二郎がどれか分かったの? そう振り返る、と、一瞬で凍った。
 めっちゃ見てる。賢二郎、めっちゃ見てる。瞬きもせずにめちゃくちゃこっち見てる。雪絵ちゃんがわたしの名前を呼んだから、じゃなくて、わたしが大きな声で話したからバレたらしいことはすぐに分かった。赤葦が半笑いで「めっちゃ見てるけどいいの、無視して」と言う。かおりちゃんも「あれ絶対怒ってる顔だわ」と初対面なのに言い当てる。やばい。まずい。困った。どうしよう。今日が命日かもしれない。
 無視という選択肢はこの世のどこにも存在しない、ので。かおりちゃんと赤葦に「死んできます」と半泣きで言ってから恐る恐る階段を下りる。背後から二人の「健闘を祈る」という声が聞こえてきて余計に泣きそうだった。
 賢二郎にめちゃくちゃ見られながら真横まで階段を下り、その場に膝をついてしゃがんだ。賢二郎の周辺に座っている人が不思議そうな顔をしているのがよく分かるけど、今はそれどころじゃない。ここをどう切り抜けるか。この偏差値お化けに対抗する話術がわたしにあるかどうかが勝負どころだ。

「誠に申し訳ございませんでした……」
「分かってんなら一から十まで説明しろ。何してんだこんなところで」
「インターハイ本戦を見に来ております……」
「お前今日夏期講習あるっつってたよな? この前俺がインハイ出るけどって連絡したとき」
「誠に申し訳ございませんでした……」
「説明になってねえんだよ。三十字以内で俺が納得できるように説明しろ」
「頭の良い人すぐそういうこと言い出す! 怖い! 白鳥沢怖い! 進学校! 偏差値高い!」
「喚くと余計に馬鹿に見えるからやめろ」

 舌打ちしたよこの人! 久しぶりに彼女に会ったのに! そうダンッと地面を叩いたら「うるせえ」と吐き捨てられた。ひどい!
 賢二郎は「で、お前なんで梟谷のジャージ着てんの?」とわたしを見下ろしながら言う。そりゃそう聞くよね。帰宅部だと思ってたもんね。ごめんね!

「バレーボール部のマネージャーをやっておりまして……」
「お前俺に帰宅部だっつってたよな?」
「言っ…………た記憶がございます……」
「理由。三十字以内」
「いいじゃんか……わたしがマネージャーやったって……」
「あと十字だぞ」
「数えてるの?!」

 久しぶりに会えたのに近況の報告もなしですか、賢二郎さん。悔しくなりつつ嘘をついたわたしが絶対的に悪いので文句は言えない。あと、賢二郎、めちゃくちゃ白鳥沢の人に見られてるけどいいのかな。余計な心配をしつつ「だ、だって〜」と目をそらしておく。

「きょ、興味あったんだもん……」
「はあ? お前中学のとき興味ないって言っただろ」
「だ、だから〜! 中学のときは賢二郎がいたから興味なかったんだってば!」
「一つも意味分かんねえ。日本語が不自由すぎるだろ」
「ひどい!」

 泣きそう。どんな公開処刑だ、これは。賢二郎をじろりと睨んだら、さらに鋭い視線で睨み返された。勝てない。勝てる要素がどこにもない。昔から口喧嘩で勝ったことがない。口喧嘩だけじゃなくて賢二郎には何でも勝てないのだ。悔しい。悔しいけど、そういうとこ、好きだな〜! 一人でそう噛みしめていると「おい、聞いてんのか」と舌打ちされた。

「け、賢二郎いなくなっちゃって、寂しかったんだもん……賢二郎バレー好きだし、じゃあわたしもちょっと、知りたいなって思っただけです……」
「いや、どっちかと言うといなくなったのお前だろ」

 そういうこと言う。今触れるのそこじゃないでしょうよ。さすがは乙女心が分からない白布賢二郎。四人兄弟の次男!
 賢二郎はため息をつきつつも、どうにか許してくれたらしい。「次なんかで嘘ついたら覚えとけよ」と釘を刺されて震えてしまう。怖い。ブチギレる賢二郎本当に怖いんだよ。一回怒ったら死ぬまで覚えてるくらい記憶力がいいし。もうこれからはどんなことでも嘘はつかないでおこう。そう胸にしっかり誓った。
 許してもらえたとなればこっちのものだ。ようやく心臓がちゃんと動いてきたので「賢二郎いつ試合なの?」と聞いてみる。賢二郎は「アホ面」と呟きつつも「午後最終」と教えてくれた。アホ面は聞かなかったことにしてあげよう。仕方ないじゃん、久しぶりに会えて嬉しいんだもん。

「あ、そうだ。見て見て!」
「なんだよ」
「しらすのストラップ〜! 賢二郎に似てるでしょ」
「似てねえよ」
「え〜似てるって〜」

 「はいはい」と言いつつも話は聞いてくれる。昔からまとまりがないわたしの話をちゃんと聞いてくれるのは賢二郎くらいだった。言い間違いをしたり間違ったことを言ったりするとちゃんと教えてくれる。面倒くさそうにしつつもちゃんと聞いてくれてるんだって分かって、わたしはついつい喋りすぎてしまうのだ。

「東京引っ越してなかったら、白鳥沢のマネージャーやってたのかなあって思うと、ちょっと寂しい」
「……
「わたし紫似合わないよね〜! でも最近よく思うんだ〜……」

 しょんぼりしてしまう。なんでわたし、中学のときにバレー部のマネージャーやらなかったんだろう。東京に引っ越すって知ってたらやってたのに。それが最近よく思ってしまう後悔だ。意地を張ってバレーに興味なんかない、みたいに言わなきゃよかった。そう呟いたら賢二郎がじっとわたしを見つめる。

「いや、お前の頭で白鳥沢受かると思ってんのか?」
「…………確かに!! 本当だ!」

 目から鱗だった。それ、当たり前のことなのに思い至ったことなかったよわたし! 本当だ、わたしの学力で白鳥沢なんて受からないじゃん! あまりに衝撃の事実すぎてびっくりしていると、賢二郎が吹き出してお腹を抱えて笑い出した。ひどい。も、もし受験するかもってなったらちゃんと勉強したもん! そう賢二郎の足を叩いたら「いや、の頭じゃ絶対無理」と余計に笑った。

「あ〜腹痛い。殺す気かよ」
「引っ越してなかったら当然のように同じ高校に通うつもりだったよ、わたし」
「無理無理。には本当に無理」
「へこむ……」

 苦笑いをこぼしていると、監督の声が聞こえた。あ、何かミーティングとかやるのかな。そう思って立ち上がる。部員たちがみんな広いロビーのほうへ向かおうと準備をしている様子だったので、賢二郎の頭をくしゃくしゃ撫でて「じゃあね!」と言ったら「お前ふざけんな、頭触るな」と払われた。かわいくない。そこがかわいいんだけどね! 「試合頑張ってね〜! 梟谷の次に応援してるよ〜!」と言い逃げするように背中を向けたら「うるせえ」と言われた。ひどくない?
 ちょうど階段を上がっていたかおりちゃんを追いかける。かおりちゃんに「ケンジロウくん、許してくれた?」聞かれる。心配してくれていたみたいだ。一応許してもらえたことを報告したら「ケンジロウくん顔めちゃくちゃ迫力あるね」とけらけら笑った。それと一緒に「よかったじゃん」とも言ってくれた。



▽ ▲ ▽ ▲ ▽




「賢二郎」
「太一黙ってろ。名前で呼ぶな気持ち悪い」
「俺が白布を名前で呼んじゃだめな理由を三十字以内でどうぞ」
「殴るぞ」
「白布の彼女めちゃくちゃ意外すぎるタイプなんだけど。天然?」
「黙ってくださいP見さん」
「梟谷って一緒のシードじゃん。勝ち上がったら当たるな」
「じゃ〜勝ったら賢二郎の彼女、うちのマネージャーにもらっちゃおっか!」
「どんなルール?」
「人の彼女を景品みたいにしないでください」


うわさのケンジロウくん