まるで自分の部屋にあるタンスかのようにおれの部屋のタンスを開け、適当に部屋着を引っ張り出すの背中を見つめながら「相変わらずだな」と少し呆れた。がいつも引っ張り出す部屋着を自分では着ないでちゃんと置いておくおれも相当あれなのでオアイコだ。
 は引っ張り出した部屋着を片手におれのベッドに飛び乗り、鞄をその辺に放り投げる。放り投げられた鞄はちょうどおれの鞄の上に落下してしまい「あ、ごめん」と心にもない謝罪が頭の上に落ちてくる。別になんとも思わないので「うん」とだけ返しておく。
 たぶん普通の女子であれば「着替えるから部屋から出て」とか「こっち見ないで」と理不尽な注文をしてくるだろう。それが当たり前だと思うし、も少しはそういうのを身に着けてほしいとさえ思う。残念なことにはそのような乙女心など持ち合わせていない。当たり前のようにスカートを脱いで、これまた当たり前のように上着を脱いで順調におれの服に着替える。もう見慣れた光景ではあるけれど、おれだってどこにでもいる普通の男子高校生なのだから、ちょっとは気にしてしまう。それが普通だと思うし別に恥ずかしいことではないのだけど、があまりにも当たり前のような顔をしているのでおれが間違っているのかと思ってしまうのだ。

「……ねえ」
「なに?」
「もうちょっと、なんか隠すとかすれば」
「え、なに研磨、意識しちゃってるもしかして?」
「その顔ムカつくからやめて」

 上着を着ている最中に声をかけるべきではなかったと後悔する。はにやにやしながらおれをじっと見つめている。「なんでもいいから早く着なよ」と視線を外しながら言えば、「えー」と面白くて仕方ないというような声が飛んできた。
 仕方ないことじゃないか、女の子の体に興味があるのは。たとえそれがだったとしても、というより、だからこそ興味があって当然じゃないか。自分の彼女の体に興味があって何が悪い、何が恥ずかしいんだ。上下そろった白のレースが頭に残っていても何ら不思議も不自然もない。
 そう自分に言い聞かせながら地べたに座る。に背を向けてベッドにもたれると、がベッドの上で動いたのが分かった。

「かわいいでしょ、これ」
「見せなくていいよ」
「もうばっちり見たもんね」

 首元にの両腕が回る。その両腕から察するに、まだ上着は首にかけたままでちゃんと着ていないのだろう。だらしないからちゃんと着ろと言ったところでが素直にそうするわけがない。分かってはいるけれど言わずにはいられない。案の定口に出したそれには「えー」と楽しそうに言うだけだった。

「もう見ないの?」
「見ない」
「見たくないの?」
「……」
「見たいんだ」
「……ってそういうとこ、性格悪いよね」
「良心的な彼女だと思うけど」

 ずるりとがベッドから滑り落ちる。おれの首元に両腕を回したままのは膝立ちをして相変わらずおれから離れない。膝立ちをしているの胸のあたりが必然的に視界に入る。わざとそうしているのだろうと思うとムカついたから、見ないように視線を外す。首にかけられたままの自分の服の哀れな有様を見て思わずため息がもれる。は一体なにがしたいのか。まさかそういう誘いなのかと勘違いしてしまいそうになる。のことだからおれをからかいたいだけなのだと思うから勘違いしないように気を張る。

「研磨もちゃんと男の子なんだね」
「分かってるならやめて」
「分かってるからするんだよ」

勘違いしないように気を張る。

「見てもいいんだよ?」
「見ない」
「じゃあ、見て」
「……おれをどうしたいの」
「どんな顔するのかなあって」

 どんなに気を張ったって勘違いしてしまう、そんなことを言われてしまったら。
 の両腕をつかんでおれから離れさせる。それと同時にぺたんと床に座ったに顔を向けると、うっすら笑ったがしっかり俺の目をとらえる。の目から視線を下にずらすと、情けなく首にかけられたままの自分の服が目に入る。それを見つめながら「それどうにかしなよ」と声をかけると、さっきと違って素直にそれをはぎ取ってベッドの上に置いた。おれの方を向きなおしたがからかうように「下もどうにかしましょうか」と言ってくる。ものすごくムカついたから「うん」と返せば、はとても驚いた顔をした。まさかおれがそう返してくるとは予想していなかったに違いない。そう思ったからおれはそう返したのだから。ちょっとだけ顔を赤くしたが「うそうそ、冗談」と目をそらす。このの発言がおれとの形勢が逆転したことをよく表している。自分からぐいぐい行くことにはなんとも思わないらしいが、おれから来られるのは恥ずかしいようだ。けど、いまさらそんな顔をされても、勘違いしてしまったのだから、どうしようもない。
 心なしか体を縮こまらせたの肩をつかむと、がびくりと反応した。「け、研磨?」と機嫌を取るような声は無視して、いとも簡単にをその場に押し倒した。

「えっえっ、研磨、どうしたの」
こそどうしたの」
「な、なにするの……?」
が見てほしそうだから見るんだけど」

 おれの言葉にの顔がいっそう赤くなる。この反応を見るに、やっぱりおれの勘違いだったと悟る。けれども一度動き出した勘違いはそうすぐに醒ませられるものじゃない。大体、紛らわしいことをするがいけないのだ。
 するするとの肩、胸、脇腹、腰と順に手を滑らせて目的のズボンまでたどり着く。おれがいくら馬鹿で勘違いしてしまったからって、なんだか急にしおらしくなったを襲おうとは思わない。けれど、勘違いさせた代償はそれなりに払ってもらわなければ気が済まない。何の躊躇もなくズボンを脱がせると、はもうこれ以上は赤くならないだろうというほど顔を赤くした。ぽいっとベッドの上にズボンを投げる。もう下着しか身に着けていないの白い肌が目に痛い。
 胸元を腕で隠すようにしているから、それを退かそうと両腕を再びつかむとが焦ったように「落ち着こう、研磨」と言う。言われなくても落ち着いている。彼女のこんな姿を見ても理性を保てているだけ、褒めてもらいたい。

「見てって言ったじゃん」
「いっ言ったけどっ」
「見せてよ」
「だ、だめ」
「じゃあパンツ見ればいいの」
「ちがう!」

 「もう!」と言いながらがおれの両目を両手で覆う。まあそれが今にできる最大の防御法だろう、少しだけ感心する。これで引き下がったら負けな気がして、の両手が埋まっているのをいいことに見ることから触ることへ行動を変える。それに気が付いたは見られたくないのと触られたくないのでものすごく混乱しているようだ。おれの目から両手を離したり、また覆ったり慌ただしいは「研磨!」ととても恥ずかしそうな声をあげた。するりとの体に手を滑らせるとがびくっと反応して、よりパニックを起こしているようだった。

「け、研磨、怒ってる……?」
「怒ってる。のせいで」
「ご、ごめん、あの、ちょっとからかいたくて」
「何もしないから見せてよ」
「してるじゃん!」
が見せてくれないから」

 の体を触っていた手を退かして、「はい、何もしてない」と言ってやるとは小さく「卑怯だ」と呟く。諦めたようにおれの両目から退けたのその手をつかんで体を起こす。を座らせてから手を離すと、は赤い顔を俯かせた。

「恥ずかしい……」
「見せびらかしてたくせに」
「そんなじっと見られると思わないじゃん」
「ねえこれどうやって外すの」
「外すこと考えないの!」

 「はいはい」と返事をしながら遠慮なくの体を見ていると、ぼそりとが「いつか、教えます」と言いながら恥ずかしそうに体を丸めた。


Love Addiction