――九月二十九日 土曜日

 練習終わり、意気揚々と赤葦を引き連れて電車に乗っている。こんなに明るいうちに練習が終わった土曜日なんて久しぶりだ。そう赤葦に言ったら「確かにね」と会話をしてくれつつも、どこか浮かない顔をしていた。

「何? なんかあったの?」
「いや……本当によかったのかと……」
「何が?」
「木葉さん、何か誘ってきたりとかなかったの?」

 せっかくの土曜日なのに、と赤葦が首を傾げる。ああ、なるほど。その心配ですか。そう笑いつつ「誘われたけど断ったよ」と言いつつスマホでお店の確認をしていると、赤葦のでかい手がわたしの顔面を掴んだ。

「今、なんて?」
「ちょ、怖っ、何?」
「今なんつった?」
「え……誘われたけど備品買いに行くし用事があるからって断ったって。完璧でしょ?」
「おまっ……ふざっ……クソ……」
「赤葦急に口悪くなったね?」

 赤葦の手を引き剥がすと、なんだかとんでもないものを見る目をしている赤葦と目が合う。「本当勘弁してくれ」と頭を抱えられて首を傾げてしまった。
 木葉さんは木兎さんたちとどこかへ行く予定を立てているようだった。にこりともできずに無愛想なわたしとどこかへ行くより、同輩の人たちと出かけたほうが楽しいに決まっている。断ってしまったことにちょっと罪悪感があったけど、楽しそうにしている横顔を見てほっとしたな。そう思い返していると「死んでもバレたくない……」と赤葦が呟いた。

「バレないバレない。そもそもバレても問題ないでしょ。赤葦とわたしだよ?」
「もう本当に嫌……」



▽ ▲ ▽ ▲ ▽




「ん?! あそこにいるの、赤葦じゃね?」

 フードコートで各々食べたいものを食べているときだった。木兎がカツ丼を食べていた箸を止めて左側に顔を向ける。思わず全員でそっちに顔を向けると、ちょうど海鮮丼らしきものを受け取っている赤葦の姿があった。

「あれ、赤葦誘ったけど断られてなかった?」
「なんか用事あるって言われた! なんだよ、行き先一緒じゃん!」
「え、彼女とか?」

 猿杙が「ちょっと偵察してくる」と席を立つ。俺たちが座っている位置から見えづらい方向に歩いて行った赤葦を控えめに追いかけていく背中を見つつ、小見が「どう?」と聞く。数秒後に猿杙がこちらに戻ってくるが、その表情がなんだかぎこちないものだった。

「え、何?」
「なになに? 赤葦誰といんの?」
「イヤ……ウン……」

 なんだその歯切れの悪さは。全員で笑いつつ、猿杙を残して席を立つ。そんな俺たちに猿杙は「え、見ちゃう? 見ちゃうの?」と俺の腕を掴んだ。いや、見るだろ。後輩の恋愛沙汰には全力でいくのが先輩ってもんだろ。そう笑っていると先に見に行った小見が「あっ」と声を上げた。

「え、なんだよ。本当に何?」
「あー……うん……赤葦はいなかったことにしない?」
「は?」

 全員顔色が悪い。なんだよ、本当に誰? そう笑いながら見に行くと木兎に通せんぼされる。「いや、たぶん何かジジョーがあるやつ、だと思う!」と謎のフォローを入れる。誰に対してのフォローだよ。不思議に思いながら柱の陰から覗き込んで、固まってしまった。



▽ ▲ ▽ ▲ ▽




 ここは壊れてしまったものと同じ色にするべきか、それとも個人的に木葉さんに似合うと思う色にするべきか、木葉さんが好きだと言っていた色にするべきか。
 赤葦とともにお目当てのお店に来ている。先ほど昼食はたらふく食べたのでお腹は空いていない。けれど、脳みその使用率が高くてすでに甘い物が食べたい口になっていた。
 デザインはいいものがいくつかあるのだけど、色で悩んでいる。赤葦もこればっかりは「なんとも言えない」と言うので完全にわたしの判断に委ねられている。わたしなら新しいものを買うときは前と違う色を選びがちだ。そのほうが新しいものにしたという新鮮味があるし、何より気分が変わる。余程変な色しかない場合以外は結構買う色がバラバラになることが多い。そのとき見た一番かわいい色で買っている。一方赤葦は、前と同じものを買いがちらしい。そもそも集めるほど好きな色がないというのと、元々派手好きなわけではないから、という理由らしい。
 木葉さんは持ち物の色が統一されているようでされていない。決まってすべてシンプルなデザインで、そこまで派手な色は持っていないという印象だ。落ち着いた色味が好きなのか、モノトーンやブラウン系のものが多い。
 かわいい色もたくさんあるけど、落ち着いた色合いにしようかな。そう悩んでいると赤葦が自分のものをはじめてしまう。なんか付き合わせちゃってごめんなさいね。そう軽く謝ると「本当にね」と返された。ごめんなさい!
 無事に木葉さんへの誕生日プレゼントを購入できた。満足だ。そう鼻歌交じりに赤葦にお礼を言うと「二度目はないからな」と若干睨まれた。ひどい。仲の良い友達とショッピングに来た、くらいの軽い気持ちでいてよ。そう言うわたしを赤葦は、またしてもため息交じりに見ていた。


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