――九月二十七日 木曜日

「絶対に嫌だ。本当に嫌だ。断る。拒否する」
「そこをなんとか! お願いします!」

 休み時間。わたしは赤葦の机に頭を擦り付ける勢いで頭を下げている。クラスメイトたちは「またやってる」と微笑ましそうに見てくれているが、赤葦はいつもと違ってかなり嫌そうな顔をしていた。そこまで嫌がらなくても!
 今週は日曜日が練習試合なので、土曜日は午前で練習が終わる。そのときに木葉さんへの誕生日プレゼントを買いに行くつもりでいる。平日は遅くまで部活だからお店が開いていないので必然的にそうなるのだ。
 土曜日の午後、木葉さんの誕生日プレゼントを買いに行くのについてきてほしい、と頼んだのだ。だって男の人の趣味とか分からないし、どういうものがいいのかも分からない。つまりは男の人の意見がほしいわけだ。それならばわたしが誘える人は一人しかいない。この赤葦京治である。助っ人としては打って付けだ。男だし木葉さんのことを知っている。条件が揃いすぎているほどだった。ただそれだけなのに赤葦はこの全力拒否っぷりなのだ。よく分からないけれど。

「別に選ぶのが嫌とかそういうわけじゃないよ?」
「え、じゃあなんでそんなに全力拒否なの?」
「あのさ、部活終わりに行くってことは、二人で一緒に学校から出ることになるよね?」
「なるね?」
「部活も一緒に上がるわけだよね?」
「そうだけど?」
「絶対嫌。というかだめだろ」
「解読不能なんだけど……」

 深いため息をつかれた。赤葦って説明上手なのにたまにわけ分からないこと言うよね。そう笑いつつ肩を叩いたら思いっきり睨まれた。え、なんですか?

「彼氏を差し置いて他の男と二人きりでどこかに行くのは良くないと思います」
「え、他の男って。赤葦京治じゃん」
「馬鹿か?」
「馬鹿じゃないです」

 首を傾げているわたしに赤葦が「最近木葉さんの視線が痛いんだって」とげんなりして言った。木葉さんの視線が痛い、とは。余計に首を傾げてしまうと、また大きなため息をつかれた。赤葦曰く、二人で話していると木葉さんが遠くから見ていることがあるのだという。特にわたしと赤葦の距離が近いときは、と付け足されて、きょとんとしてしまう。
 いやいや。そんなまさか。木葉さんはそういう人じゃないでしょ。仲が良い同級生と楽しく話しているだけで、所謂嫉妬なんてものをする人じゃない。そもそも嫉妬する要因がないに決まっている。そう笑って言ったら「もうやだこの人」と頭を抱えられた。

「本当にお願い! コーヒーくらい奢るから!」
「いや奢らなくていいけどさ……」

 苦虫を噛み潰したような顔をした赤葦が、いろいろと苦いものをごくりと飲み込んでから「分かった」と苦しそうに言った。そこまで苦しまなくても。
 ただし、条件を付けられた。備品の買い足しであるふうを装うこと、だ。何か買い足す必要があるものを無理やり見つけてそれを買いに行く体にしろ、と言われた。もちろん本当には買わない。そういう部活としての必要性があるから行くんだよ、というふうにしないと行かないと苦い顔で言われた。そんなの朝飯前ですよ。ちょうど消毒液がなくなりかけていてわたしが買いに行く当番だ。明日親が薬局に行くときに買うつもりだったところだったのでタイミングが良い。そう意気揚々と言えば赤葦は頭を抱えつつ「どこ行くつもりなの」と諦めてくれた。


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