幼馴染っていう存在は有難くもあり、厄介な存在だと思うのだ。子どもの頃からずっと一緒にいるから些細な変化に気付いてくれる。その代わりに隠し事はできない。気付いたら仲が良かった状態だったからなのか気を遣わなくていい。その代わりに一度亀裂が入ると修復はかなり難しい。そういう、諸刃の剣みたいな存在。
 俺にとってそういう存在が二人いる。岩ちゃんと。ずっと小さい頃、物心つく前から家が近くて親同士が仲が良かった。気が付いたら一緒にいたし、気が付いたらそういう存在になっていた。こういう存在は手に入れようとして手に入るものじゃない。二人と出会わせてくれた両親には感謝してもしきれないほどだ。

「でも、だからってこんな時間まで居座る?」
「なんか言った?」
「何もないです〜」

 は俺の本棚から次々に漫画本を取り出しては読み続けている。もうかれこれ5時間くらい。俺は俺でバレーの試合映像を見ているから問題ないのだけど。とはいえさすがに深夜1時まで居座られると、ちょっとどうしたものかと思ってしまう。もともとはいい幼馴染でもあるが、俺をよく困らせてくる幼馴染でもある。その「困ったさん」をいかんなく発揮されているのが今というわけだ。

「もー冬休み中とはいえさーちょっとは遠慮しなよ」
「徹うるさい」
「あ、はい、すみません……じゃなくて!」

 また一冊読み終える。は読み終えた漫画本を本棚に戻しつつ俺の顔をちらりと見る。しばらくじっと見つめていたかと思えば、急に大きなため息をついてうなだれた。

「ちょっと人の顔見てため息ってどういうこと!」
「はー、もう嫌になるわ」
「なにが!」
「徹、イケメンすぎてむかつく。本当クソ及川だわ」
「意味わかんないんだけど!」

 はうつむいていた顔をあげて、また俺の顔を見たかと思えばへらりと笑った。そうして「彼氏できないじゃんかよー」と理不尽な文句を言ってくる。え、それ俺のせい? 素でそう呟いたら思いっきりクッションを投げつけられた。

「痛いなもうー!」
「うるさいクソ及川」
「岩ちゃんの真似しないで!」
「嫌になるわーもー嫌になるわー」
「そもそもなんで俺のせいなの? !あ、彼氏ほしいなら岩ちゃんとかどう?」
「なんではじめちゃんが出てくんのさ」

 あ、不機嫌そうな顔。その顔を見てこっちがため息をついてしまった。は昔から俺と岩ちゃんのそばにいて、俺たちのことをよく分かってくれている。少しでも顔色が違うと思えば声をかけてきたし、少しでも様子がおかしいと思えば気を遣ってきた。俺たちのことだったら、何でも分かるはずなんだ。だから、岩ちゃんがのこと好きなのだって、分かるはず、なのに。

「はじめちゃんはもっと大人しい子が好きだってば」

 なんでそれだけ分かんないのこのバカは! なんなの? いやがらせなの? 岩ちゃんへのいやがらせなの?! それとも俺へのいやがらせ?!
 は昔から俺と岩ちゃん、どちらとも仲が良い。けど、何かしら俺を優先してくるというか、何かあると必ず先に俺に連絡をしてくる。話しかけるのが先なのも俺が多い。何かしら贔屓してくるというか。それがなぜなのかは分からないことにしておくけど、そのたび、岩ちゃんがちょっとだけ俺をにらんでくるのだ。それが居心地悪くて仕方なくて、正直なところ最近の大きな悩みとなっている。はじめはそれの意味が分からなかった俺も、中学の途中くらいで分かってしまったから余計に面倒くさい。「あ、岩ちゃんのこと好きなんだ」って、分かってしまった瞬間から俺の苦悩は膨れ上がった。

って本当バカだよね」
「は?」
「岩ちゃんはね、意外と明るくてバカな女の子が好きなんだよ」
「は〜? 大和撫子みたいな女の子が好きなんです〜そういう子じゃないと認めません〜」
「お母さんか!」

 はけらけら笑う。「いや、真面目な話、絶対大人しい子のが好きだって」と言う。いや、真面目な話、はじめちゃんはバカの方が好きなんだってば、お前みたいな!口には出さないけど目でそう訴えたらは不思議そうな顔をする。岩ちゃんの長年の片思い、これから先も長そうだな。そう思ったら岩ちゃんがかわいそうに思えたと同時に、ごめんね、って気持ちが溢れ出た。岩ちゃんにも、にも。


「なに」
「ごめんね」
「……? なにが?」
「なんだろうね」

 窓の外は真っ白な雪が降っている。電灯の光を淡く広げている様は、光が降ってきているようにも見えた。淡く儚い光。ふわふわと降っては消え、また降っては消えていく。ああ、明日は晴れてほしいな。目を開けられないくらいの、眩しい空。なぜだがそれを見たくてたまらない気持ちになってしまった。


winter halation