※捏造過多です。




――高校二年生、夏

 インターハイ東京予選大会。一回戦を終えたわたしたち音駒高校は、午後から行われる二回戦に向けてしばしの自由時間を過ごしている。わたしはOBからの差し入れを部員に配り終わってようやく席に座ったところだ。隣にいる夜久が「これうまいな」と差し入れのおにぎりをもぐもぐおいしそうに食べている。わたしも食べたい。さっき自分の分を取っておいたものをリュックに入れたはず。そう、リュックに手を伸ばしたときだった。

ちゃん」

 びくっと肩が震えた。え、誰? 不思議に思いながら顔を後ろに向けると、そこには、井闥山学院のジャージを着た男の人が一人。わたしにつられて振り向いた夜久がぼそりと「え、知り合いなのか?」と聞いてきた。
 困った。全く心当たりがない。でも、名前を聞かずとも誰かは分かる。井闥山学院、佐久早聖臣。一年生にして大注目の選手である佐久早くんは一つ年下だ。遠くから試合を観たことはあるけど、これっぽっちも接点がない。それにも関わらずわたしに声を掛けてきている上、下の名前で呼んだ。一体どういうつもりで?

「……聞いてる?」
「え、あ、はい、聞いてます。えっと……?」
「身長、抜かしたんだけど」
「は?」

 思わず特大のハテナを浮かべてしまった。そんなわたしの様子に佐久早くんの眉間にしわが寄る。理解できていないままのわたしをじっと見つめると「覚えてないの?」と小さな声で言った。覚えてないの、って、何を?

「俺がちゃんの身長を抜かしたら結婚するって」

 こっそり聞いていたらしい黒尾が吹き出した声が聞こえた。うるさい、黙れ、今それどころじゃない。わたしは大パニックだ。
 そもそもわたし、佐久早くんと話すの、これがはじめてなんですが。そう恐る恐る言うと佐久早くんが「は?」と目を丸くした。そんな顔をされても話したことはない。だって、佐久早≠ネんて名字の人、知り合いにいないし。そうぼそぼそ言うと「聖臣だよ。きよちゃんって呼んでたじゃん」と、少し拗ねたような口ぶりで言った。
 宇宙に投げ出されたみたいにわけが分からない状況だったのが、ほんの少し開けてくる。あ、なんか、思い出しそう。佐久早聖臣。聖臣。きよちゃん。頭の中で何度も呟いて、あ、とようやく思い至った。
 小学二年生のときのぼんやりした記憶だ。当時のわたしは今の学区と違うところに住んでいて、小学二年生までをそこで過ごした。その短い二年間でできた友達の中に、きよちゃんという子がいたことを思い出した。
 登校班が一緒だった。いつも大人しくて静かなきよちゃんは、くるくるのきれいな黒髪をしていて、つるんとした頬がかわいくて。お姉さんぶりたかった当時のわたしはきよちゃんにばかり話しかけていたっけ。きよちゃんは徐々に笑ってくれたり自分からわたしに話しかけたりしてくれるようになったのだ。わたしが引っ越す日には見送りに来てくれて、寂しいと言ってくれたことを覚えている。そこできよちゃんが言った言葉も思い出した。きよちゃんは「結婚して」とうるうるの瞳で言ったのだ。それがあんまりにもかわいくて。でも、大人にならないと結婚できないと知っていたわたしは、「わたしより大きくなったらね」と言った、記憶がある。いや、というかそもそも、きよちゃんはかわいい女の子、の、はず。

「きよちゃんって男の子だったの?!」

 黒尾がまた吹き出した。ついでに夜久も。驚愕しているわたしを見ている佐久早くんは、一瞬固まったのちため息をこぼして「そうだけど」と言った。くるくるのきれいな黒髪。つるんとした頬。確かにわたしの記憶にあるきよちゃんの要素はある。でも、わたしが覚えているかわいいきよちゃんと違う。きよちゃんは当時は珍しいブラウンのランドセルだったことをよく覚えている。かわいい色だったし、服もかわいかった。落ち着いた雰囲気だったけれどどこか放っておけなくて頼りない。そんな雰囲気だったから、きっと妹がほしかったわたしは勝手に女の子だと思ってしまった、の、かも。
 そもそもそんな子どもの頃の約束をよく覚えていたな、なんて驚いてしまう。ほんの一年しか関わらなかったし、わたしが引っ越してしまってからは一度も会っていない。今日までわたしはきよちゃんのことを忘れていたし、そんな約束なんて言われなければ思い出さなかっただろう。冷たいとは思うのだけど。

「180cm超えたんだけど」
「お、大きくなったね……」
「で?」
「……え、えーっと」

 高校生になったきよちゃん改め佐久早聖臣くんは、どこからどう見ても女の子ではない。当たり前だけれど。背が高くてがっしりしていて、わたしが知っているきよちゃんではなくなっていた。あのときの頼りない感じもどこにもない。全くの別人。わたしから見れば。

「お、お友達から、リスタートで……」
「は?」
「やだ怖い怖い、わたしが知ってるきよちゃんはそんな睨み方しないんだけどな……」
「オトモダチからなんか無理。十年以上待ってるんだけど」
「そ、そうですか……」

 ちらりと夜久、黒尾に助けを求めてみる。黒尾はともかく夜久なら男らしく助けてくれるんじゃ、と期待してみたけど、残念ながら二人とも面白そうにしているだけだった。他人事だと思いやがって。いや、他人事なのだけど。
 仕方なく一人で佐久早くんに立ち向かうことにした。約束とはいえ子どもの頃のことだ。しかもわたしは佐久早くんをちゃんと覚えていなかった。さすがにわたしからすれば初対面の男の人、という存在とお付き合いするなんて無理だし、結婚なんて以ての外。きちんと謝って断れば佐久早くんだって分かってくれるはず。

「ほら、あの、小学生のときからだいぶ変わっちゃってるし……お互いのことをちゃんと知ってからじゃないと後悔すると思うよ?」
「なんで?」
「なんで、って……」
ちゃんはちゃんだろ。何も変わってない」

 意志が強い。これはいくら言っても無駄なやつかもしれない。困ってしまいつつも逃げるわけにもいかない。というか逃げさせてくれるとは思えない。
 これは別の条件を提示してこの場を治めるしかない。できなくはないけど、そう簡単ではないこと。それくらいの条件を言えば一旦は引いてくれるかもしれない。

「じゃあ、インハイで優勝したらで……」
「は?」
「結婚とかそういう大事なことを子どものときの約束で決めちゃうのは、ちょっとだけ抵抗があるというか……ご、ごめんなさい……だからインハイ優勝したらって約束に変えてほしいな、と」

 黒尾が「わ〜サイテ〜」と小声で言った。うるさいわたしも分かってます。インターハイで優勝したら、なんて。正直良くない条件を提示したと言ってから後悔している。ごめん、ともう一度内心で謝っておく。
 ただ、それ以外にいいものが思いつかなかった。井闥山は強豪校だし、優勝候補でもある。できなくはないけど、そう簡単ではないこと。それに合うのが口から出ていったものだったから。

「いいよ」

 呆れたような顔をして佐久早くんはそう言った。しょうもない女だ、と失望したのかもしれない。少し罪悪感を覚えつつ「ありがとう」と返しておく。ため息をついたのが聞こえた。よし、諦めたかも。

「そんな約束しなくても元からそのつもり」

 ため息交じりにそう呟いて、踵を返す。背中を向けてさっさと歩いて行く姿を見送ってから、黒尾たちのほうを見る。へらりと笑うと、二人ともへらりと笑って「ご愁傷様」とだけ言葉をくれた。





▽ ▲ ▽ ▲ ▽






――六年後、現在

「かんぱ〜い」

 やる気のない研磨の音頭で全員が「かんぱ〜い」と笑う。黒尾に言われて無理やり音頭を取らされた研磨は不服そうだ。可哀想に。そうこっそり思いつつ一つため息を吐いた。隣に座っている夜久が「ため息つくと幸せが逃げるぞ〜」とからかってくる。うるさい。わたしにだってため息を吐きたい瞬間はある。幸せでお腹がはち切れそうなときくらいはため息をついていいでしょ。そう無言で返す。

「我が音駒高校マネージャーのさんから発表がありま〜す」
「黒尾おいこら、いいってば」
「いやいや。後輩らにも祝ってほしいだろ〜」
「え、なんスか? さんなんかあったんスか?」

 久しぶりに会ったリエーフがにこにこ顔でそう聞いてくるものだから無下にできなくなる。海までにこにことわざとらしく「なんだろうな」と言う。知ってるくせに。そう夜久が肘でつつくと同輩たちが楽しそうに笑った。

「……このたび結婚することになりました」
「え?! 結婚?! おめでとうございます!」
「どうも……」
「どんな人なの?」
「…………バレーボール選手……?」
「マジっスか?! えっ誰? 誰ですか?!」

 黒尾と夜久がにやにや笑う。「誰ですかー」と棒読みで言うとばしばしわたしの肩を叩いた。面白がりやがって。くそ。そんなふうに睨み付けるけれど効果は特になし。知ってた知ってた。あんたたちはそういうやつらだったよ。
 六年前のインターハイ。忘れもしない。あの場には黒尾と夜久しかいなくて、他の人はあのときの出来事を見ていないし知らないままだ。黒尾と夜久が話した海には知られてしまったけれど、後輩たちは誰も知らない。わたしが口を酸っぱくして絶対に喋るなと念を押したからだ。

「……佐久早聖臣です」
「…………えっ、サクサキヨオミ……?」
「井闥山の?」
「どういう繋がりっスか?」

 研磨まで驚いて目を丸くしている。くそ、掘り下げてくるな。そう話すことを拒否していると、げらげら笑った黒尾が「俺らが三年のとき、インハイで井闥山が優勝したからだよな〜?」と口走る。それに後輩たちがハテナを飛ばして質問攻めしてくるものだから、もう全部話すしかなくなってしまった。



▽ ▲ ▽ ▲ ▽




――高校三年生、夏

 インターハイ本戦が終わった数日後。合宿の日程を頭の中で確認して、それまでに必要な備品の買い足しがいるかどうかを考えているときだった。家の方向が同じの夜久、海と三人で歩いていると、突然夜久が「あ」と言って立ち止まった。海が「どうした?」と不思議そうにしつつ立ち止まるのでわたしも立ち止まる。忘れ物でもしたのだろうか。そう思いながら、何気なく夜久の視線の先に目を向けると、わたしも「あ」と声が出た。
 佐久早聖臣。井闥山学院二年生のバレー部エースで、今年のインターハイ覇者。その姿がそこにあったのだ。
 夜久が海を連れて「じゃ、ごゆっくり〜」と楽しげに去って行く。救いを求めても完全に無視される。くそ、夜久め。面白がりやがって。そう恨めしく思っていると「ちゃん」と落ち着いた声がその場に響いた。

「インハイ、優勝したんだけど」
「あ、はい、オメデトウゴザイマス……」

 とてもよく存じ上げております。そう頭をかきつつ答える。一年前のインハイ予選大会のことは片時も忘れたことがない。結婚、なんて強いワードを出されているのだからインパクトがすごくて忘れられるわけがない。去年のインハイ、井闥山は優勝をつかみ取れなかった。それにほっとしてしまった自分が人として本当に最低だったので、あの安堵は絶対に秘密を貫いている。
 佐久早くんがこちらに近付いてくる。今日は部活はオフだったのだろうか。音駒の練習が終わるのを待っていたというのは明らかだった。わざわざ井闥山からここまで移動してきたのか。そう思うと、少しだけ、心が動きそうな自分がいる。

「いつにする?」
「えっ、何が、でしょうか……」
「俺が高校卒業してからすぐでもいい」
「会話のテンポが早いなあ!」

 思わずツッコんでしまった。佐久早くんはそれを鼻で笑って「だって約束したから」と言った。確かにその通りだ。ちょっと負けた気になりつつ、一歩下がってしまう。佐久早くんも一歩ずつ近付いてくる。まさに一進一退。そんななんとも苦しい状況だった。

「ちょっと、あの、さすがにほら、結婚は、話が早すぎるから」
「……」
「じゅ、順番があるし、まず、」
「オトモダチは無理」
「はい、うん、分かってます。だから、えーっと、あー……お、お付き合いからで、か、勘弁して、もらえないでしょうか……」

 明らかに不満げな顔をされた。いや、さすがにこれ以上は譲れません。自分の人生がかかっているので。やんわりそう伝えると、佐久早くんは五秒くらい黙った後「嘘つき」と拗ねたように呟いた。

「分かった。いいよ、とりあえずそれで。とりあえずだけど」





▽ ▲ ▽ ▲ ▽




――現在

「お〜い〜さすがに起きてくれ〜」
「完全に死んでんじゃん。こりゃ起きないな」
「やっくんが飲ませすぎたんじゃないですか〜?」
「だって全然酔わないから! つい!」

 ぎゃんぎゃん騒ぐと頭が痛いんですけど。ぽつりとそう呟くと、わたしの肩を支えてくれている黒尾が「あ、生きてた」と笑った。こんなところで死んでたまるか。そう睨んだら怖がられてしまった。
 眠気には勝てない。黒尾の肩に掴まったまま目を瞑ると「寝るな、死ぬぞ」と黒尾が苦笑いをこぼした。死なない。生きる。大丈夫。そううまく呂律が回らない口で言っておく。久しぶりに飲み過ぎた。夜久が全然酔わないから張り合ってしまった自覚がある。結構強いほうだから大丈夫だと思ったのに。
 海が「タクシー呼ぶ?」と変わらぬ優しい声で気を遣ってくれた。飲み会の会場は比較的家から近い場所にしてもらっているし、二駅くらいならなんとか電車で帰れます。そうお礼を言うと「本当にか?」と海が苦笑いをこぼした。
 電車の方向が同じ黒尾がこのまま一緒に帰ってくれることになった。その他の皆さんはタクシーだったり別の電車だったり、福永に至っては徒歩で帰るとのことだった。相変わらず自由な仲間たちで笑っちゃうね。陽気にけらけら笑っていたら黒尾が「はいはい人妻さんしっかりね」と苦笑いをこぼしていた。まだ結婚してませ〜ん! 紙に名前は書いたけど! そう笑うわたしに黒尾が「もうやだこの酔っ払い」と頭を抱えた。
 黒尾に引きずられながら電車に乗り、移動している間に黒尾がマンションの住所を聞いてきた。スマホで大体の位置を把握しておくつもりだろう。相変わらず頼りになるわー。そう頭をぐしゃぐしゃ撫でくり回してやる。黒尾はもういろいろと諦めているみたいで「はいはいありがとうございます」と繰り返すばかりで場所の把握に余念がない様子だった。
 二駅先で降りて、また黒尾に肩を借りつつ我が家へ向かって歩いていく。案内しなくてもまっすぐ我が家への最短ルートを歩く黒尾に感心してしまう。また黒尾を褒めつつ笑っていると「近所迷惑なんでやめましょうね〜」と軽く叱られた。すみません。
 程なくして到着したマンションを見た黒尾が「すげーインターフォン押したくないんですけど」と呟く。えー押さなくてもわたし開けられるよー。へらへら笑いつつオートロックを解除。なぜだか苦笑いをこぼしている黒尾を引き連れて中へ入り、エレベーターに乗り込んだ。

「ちなみに佐久早サンはいらっしゃるんで?」
「いるよ〜。今日練習だったし寝てるかもだけど〜」
「そうですか……」
「聖臣会いたいの〜? 叩き起こそうか?」
「本当に勘弁してください」

 別に会わないし用もないんならいいじゃん。どうしたの。そう首を傾げるわたしに黒尾は「男の勘」とだけ返してきた。オトコノカン? なにそれ〜。酔っ払っているわたしにはよく分からない面白い響きにしか聞こえなかった。
 エレベーターを降り、まっすぐ自分の部屋まで向かう。鍵を取り出して差し込んだ瞬間、中からガタッという物音が聞こえた。あれ、聖臣起きてるじゃん。もう結構遅いのに珍しいなあ。そんなふうに思っているわたしの隣で黒尾が「やっぱり」と苦笑いをこぼした。やっぱり、とは? よく分からないままでいるわたしが鍵を開けるのとほぼ同時に、ドアが開いた。

「あ、ドウモ〜。奥様お届けに参りました〜」
「……どうも」
「聖臣ただいま〜」
「ねえ、なんでこんなに酔ってるの。いつもこんなに酔わないのに。大丈夫?」

 するりと黒尾が離れる。聖臣が両腕でぎゅっとわたしを捕らえてから黒尾に「どうも、ありがとうございました」と言うのでわたしも「ありがとねー」と軽く言う。いや今は酔っ払ってるからね。ちゃんとお礼しますよ。そんなふうに付け加えると黒尾は「いえいえ〜無事に送り届けられてよかったです〜」と妙にぎこちなく言って、そのまま帰っていった。
 ばたん、とドアが閉まる。聖臣がきちんと鍵をかけてから「ねえ、」とちょっと怒ったような声で呼びかけてきた瞬間、「あ!」と大きな声が出てしまう。しまった。つい聖臣がいたからくっついちゃったじゃん。聖臣帰ってきてそのままぎゅってするのとかあんまり好きじゃないでしょごめんね! へらへら笑いつつそう謝ると、聖臣がなんだかいろんな感情が入り混ざった変な顔をした。

「ねーねー何時まで起きてる? お風呂入ったらぎゅってしてもいい?」
「……」
「聖臣ってばー」
「……もういいよ。好きにしろ。なんでも良くなった」
「それっていいこと? 悪いこと?」
にとってはすごくいいこと」
「やった〜!」

 ではお風呂に入ってくるのであります! 変な言葉遣いのまま靴を脱いでお風呂場へ行こうとしたら、聖臣が全力で止めてきた。「いま入ったら絶対死ぬ」と真顔で言うものだからおかしくて、余計に笑いが止まらなくなった。
 聖臣がわたしを抱き上げた。え、お風呂入ってないのにいいの? そうびっくりするわたしに聖臣が「いいよ」と言う。いいんだ。そういうの嫌だって言うと思っていた。実際に自分は帰ってきたらすぐにお風呂に入るのに。一緒に住み始めてからはわたしも真似してすぐお風呂に入るようになったっけ。これが意外とハマるんですよ。帰宅してリビングに行かずにお風呂場に直行。じんわり体の疲れが消えていくのがね、たまらないんですよ。いい匂いになってぽかぽかの体温でリビングでごろごろするのが至福なんだよねえ。
 聖臣がソファにわたしを下ろしてくれた。聖臣号の終点はソファなんだねえ。そんなふうにへらへらするわたしの隣に腰を下ろすと、聖臣がまじまじとわたしの顔を見る。なんでしょうか。ちなみに顔が赤いのはお酒のせいです! 元気に宣言するわたしを無視して聖臣は「って、本当に変」と小さく笑った。

「え〜変じゃないよ〜」
「変だよ。子どもの頃からずっと。俺のこと一回も変って言わなかったのくらいだし」
「え〜?」
「まあ、高校のときはちょっと変って思われてただろうけど」
「だって急に結婚とか言うんだもん。びっくりしたんだよ〜」

 聖臣が優しく笑った。わたしの目線に合わせるように背中を丸めて「はいはい」と言う。聖臣、昔より話し方とか言葉の選び方が優しくなったよね。妙に世話焼きだし、意外と人を放っておけないタイプだって知ってびっくりしたよ。そんなふうに思い出話をするわたしに、聖臣が「全員にそうするわけじゃない」と言ってからゆっくりと立ち上がった。どこ行っちゃうの? そう腕を掴むわたしに聖臣は「水持ってくるから。ちょっとでもいいから飲んで」と言って、そっとわたしの手をほどいた。え〜優しい〜。そう背中に声をかけると、少しだけ振り返って満足そうに微笑んだ。



▽ ▲ ▽ ▲ ▽




「う〜……頭痛い……何も覚えてない……」

 目が覚めたらきちんとベッドに入っていたし化粧も落としてあった。ほとんど記憶がないのにやるじゃん、わたし。なんて得意げに思っていたけど、すぐに聖臣がやってくれたのだと分かった。わたしの鞄がきちんと定位置に置かれていたし、いつも忘れるスマホの充電がしっかりされていたし、何より着ていた服がちゃんと洗濯機に入れられていたからだ。丁寧に洗濯ネットに入れられた状態で。
 聖臣はもう家を出たあとらしい。テーブルに書き置きが残されていた。夕方には帰る、という見慣れた筆圧の薄い字で書かれた紙。申し訳なく思いつつも世話を焼いてくれるのは助かるし嬉しい。帰ってきたらきちんとお礼を言わなくちゃ。
 それにしても、本当によく分からないままここまで来てしまった気がする。高校二年生のインハイ予選、はじめて聖臣が声をかけてきたときのことを思い出した。あのときは本当に意味不明だったし、まさかきよちゃんが男の子だったなんて信じられなかったし、何を言われているのか最初から最後まできちんと理解できていない感覚だった。
 たぶん、子どもの頃にあんな形で出会っていなければ、聖臣はわたしと付き合うことはなかっただろうと思うのだ。大雑把だし、忘れっぽいし。聖臣はきれい好きでしっかり者だからわたしを見ていてイライラすることが多いと思う。それなのに、どうしてなのだろう。





▽ ▲ ▽ ▲ ▽






 幼稚園で同じ組だった女の子に「くるくるで変なかみのけ!」と言われたから、自分の髪が嫌いになった。姉のお下がりの服も好きじゃなかった。女の服だ、とばかにされるから。もちろん明らかな女の子用の服を着ることはなかったけど、ギリギリ男でも着られるような服は問答無用で着させられていたことを思い出す。
 髪も瞳が真っ黒だからなのかブラウンのランドセルを親が買ってきたときは内心少し憂鬱だった。人と違うというのはからかわれる原因になる。どうせこれも人に何か言われるのだろう。何でもいいと言ったのは自分だから親にはそんなこと言わなかったけど。
 小学一年生、はじめての登校日。知らない人と一緒に歩くことが嫌でたまらなかったことをぼんやりと覚えている。一応姉も同じ登校班にいたけれど、姉は友達と楽しそうに話しているし、わざわざ俺には構ってこない。別にそれでよかったしひたすら黙って歩けばいいと思っていた。
 でも、突然顔を覗き込まれた。知らない女の子。俺の顔を近くで観察してぱっと明るく笑った。それから弾けるような声で「くるくるの髪、かわいいね!」と言った。自分が嫌いな髪。それをわざわざ話題に出されたことが嫌だった、はずなのに。目の前の女の子があんまりにも明るく言うから、追い払おうとは思わなかった。
 その女の子は俺の隣でひたすら楽しそうに話し続けていた。俺のことをずっとかわいいと言って。かわいい、という言葉も好きじゃないのにこの子に言われることは不思議と嫌じゃなくて、言われるがままに受け入れていた。
 俺が嫌いな自分の何かを、すべて良いものだと言ってくれる。俺がこうじゃなきゃ嫌だと思っていることを、すべて「それならこうすればいい」と受け入れてくれる。は、俺にとって、特別な女の子になった。何を言っても何をしても、なら大丈夫。そんな信頼と確信があったから。





▽ ▲ ▽ ▲ ▽






 ガチャ、と玄関の鍵が開いた音。読んでいた雑誌をテーブルに置き、ソファから立ち上がる。そっとリビングのドアを開けて玄関を覗くと、ちょうど靴を揃えている聖臣の背中が見えた。

「き、聖臣〜」
「ただいま」
「おかえりなさい……」

 こちらを振り返った聖臣が不思議そうな顔をすると「体調悪い?」と首を傾げた。ただ申し訳ないだけです。そう軽く頭を下げて言ったら、思い至ったように鼻で笑われた。

「別に怒ってない」
「本当? わたし、何か変なことしてなかった?」

 脱衣所のドアを開けつつ「いや、別に?」と得意げに笑ってから中へ入っていった。今の顔、絶対何かあったんじゃん。嫌な予感しかしない。本当、何したんだろう。そもそもどうやって家まで帰ったっけ? いろいろ分からないことが多いまま、顔を押さえつつ大人しくリビングに戻った。
 ソファに座っても落ち着かない。あー、本当何やっちゃったのかな。自分の頬を何度か手で摘まむように触りつつ一つ息をつく。何をやっても記憶は巻き戻ってくれない。朝起きたら頭が痛かったことしか思い出せなかった。
 前にもこんなふうに酔っ払って帰ってしまって、記憶がないままに目が覚めたことがあったな。あのときはどうやら知らない人に家まで送ってもらったらしくて聖臣にいたく叱られたっけ。今回はそういうわけじゃなかったのだろう。そうなると方向が同じ黒尾辺りが送ってくれたのかも。それならお礼を言わなくてはいけない。そう思ってスマホを手に取ったら先回りされていた。黒尾から「無事?」と連絡が来ていたのだ。それに「申し訳ありません。無事です。ありがとうございました」と返しておいた。
 脱衣所のドアが開いた音。そそくさとソファから降りて正座。程なくして戻ってきた聖臣がわたしを見つけると「……何してんの?」と心底不思議そうに聞いた。

「いや……その、本当に何も覚えてなくて……ごめんね」
「別に何もなかったよ。怒ってないって言っただろ」
「じゃあその得意げに笑うのが何なのか教えてください……」

 髪を拭きつつ聖臣がしばし黙る。前髪を払ってからまた得意げに笑うものだから気になって仕方がない。怒られるようなことはしなかったけど、何か恥ずかしいことをしたのだろうか。
 聖臣がちょいちょいと左手で手招きしてきた。立て、ということかな。恐る恐る立ち上がって聖臣の顔を見る。じっと見下ろされることがはじめのほうは少し怖かったことを思い出す。いつも表情があまり変わらないし、口数も多くないから何を考えているのか分かりづらい。そんなふうに思っていた頃もあったっけ。
 突然結婚の二文字を出された高校生の頃。さすがに子どもの頃の約束とはいえハイ分かりましたなんて言えなくて、苦し紛れにお付き合いからスタートさせたなあ。彼氏がほしいと思ったことはあったけど、まさかあんなイレギュラーな経緯でできるなんて夢にも思わなかったな。
 昔のことを思い出していると、唐突にぎゅっと抱きしめられた。正直首を傾げてしまう。急にどうしたのだろうか。聖臣はむやみやたらとベタベタしてくるタイプじゃない。抱きしめたりキスしたりする何かしらのファクターがあったはずなのだけど、とんと何なのかが分からない。
 まあ、嫌というわけではない。大人しく腕の中に収まっておく。聖臣は特に何か言うでもなく、ただただ静かに呼吸だけをしている。静かな空間にほんのり緊張してしまいつつ体温を感じて知らない間にそっと目を瞑っていた。落ち着く。聖臣の体温とか大きな体とか心臓の音とか、すべてがわたしに静穏をくれる。いつからこうなったかはもう覚えていない。
 よく分からないまま恋人になって、よく分からないまま定期的に会うようになって、よく分からないままお互い呼び捨てで名前を呼ぶようになった。ずっとよく分からないままなのだけれど、思い起こせば恋人になったとき以外の全てはとても自然な流れでそうなっていったという感じだった。恋人になってから一回会ったあとは特に何も考えず二回目を迎えたし、名前で呼んでと言われて特に考えることも迷うこともなく名前で呼ぶようになった。はじめて抱きしめられたときも、はじめてキスしたときも、はじめて体を重ねたときも、全部だ。
 聖臣が深く呼吸をしたのが聞こえる。息を吐ききってから腕の力を緩めて顔を上げる。満足したのかな。少し名残惜しく思いつつわたしも腕を緩めて顔を上げると、じっとこちらを見てくる聖臣と目が合った。

「甘えたの日?」
「……うるさい」

 うるさい、だって。かわいいな、この人。相変わらず。



▽ ▲ ▽ ▲ ▽




――高校三年生、春高本戦

「で、は彼氏の応援行かなくていいのか〜?」

 烏野との試合を終えて黒尾たちとぶらぶら歩いていたとき、夜久からそう茶化された。ちょうど井闥山が試合中だからだろう。ちょっと気にはしていた。知り合いが出ている試合なら誰だって気になる。友人だろうが恋人だろうがそれは変わらない。別に佐久早くんだから気になるというわけではない。なぜだか言い訳をこねつつ、元から見に行くつもりはさらさらなかった。

「行かなくていいです〜。行かなくても勝手に勝つでしょうよ」
「お〜お〜そりゃずいぶんな信頼なこって」

 別に信頼ではない。そう言ってもからかわれるだけなので黙っておく。成り行きで付き合うことになってしまったので正直未だに困惑している。付き合うとは言っても佐久早くんとは会いにきてくれた日から今日まで二回しか会ってない。それもほんの数時間の短い時間だけだ。お互い部活がある上にわたしは受験生。時間がない上に合わない。そんなことは佐久早くんも承知しているようで、連絡先は交換したけれどあまり連絡を取ってくることもない。いまいち付き合っているという実感がないままだった。
 コートの近くを通る瞬間、ちらりと視線を向けてみた。コートにいるのは全国で三本の指に入る大エースの佐久早聖臣。丁寧なプレーと力強いスパイクが個人的に印象に残っている。でも、それ以外には何も思ったことがない。あるとすれば東京大会で当たって負けたことが悔しかったというくらい。まさか関わりを持つなんて夢にも思っていなかった。ああ、いや、そう言うなら子どもの頃に出会っていたなんて*イにも思っていなかった、か。
 小学生のときのことが佐久早くんにとってどういうものだったのかは分からない。どこを気に入ってくれたのかも分からないし、どうしてここまで執着しているのかも分からない。強豪校のエースなのだからいくらでも女の子は選べそうなのに。まあ、ちょっと変わり者っぽいから選り取り見取りってわけではないだろうけれど、それでも十分なはずだ。わたしにこだわる理由が分からなかった。
 黒尾たちが黙っていることに気付いてハッとする。恐る恐る視線を黒尾たちのほうへ戻すと、思った通りにやにやしてわたしを観察していた。

「なんだかんだで気になるのね〜」
「うるさい。黙れ」

 知らない間にじっと観戦してしまっていた。顔を背けて歩き出そうとするわたしの腕を夜久が掴んだ。「いいだろ、ちょっとくらい見てやれよ」と笑う。別に見てほしいと言われたわけでもないし見たいと思っているわけでもないですけど。そう突っぱねるわたしを海がなだめてくる。ずるずると腕を夜久に引っ張られ、ぐいぐいと背中を黒尾に押されて、結局ちゃんと見える観覧席に連れてこられてしまった。
 仕方なくコートを見つめる。何度も予選大会で見た相手だ。危なげのない試合運びには正直惚れ惚れするほど。その中でエースという位置にいるのはどんな感覚なのだろう。誇らしいのか、プレッシャーを感じるのか。佐久早くんはそのどちらでもないように見えて不思議な人だと思う。
 彼氏、か。やっぱり実感が湧かないしうまくいく予感もしない。向こうが子どもの頃の記憶を美化してしまっているのだし、そのうち向こうから終わらせてくるであろう関係だ。あまり深く考えなくていいか。何を真剣に思い悩んでいるんだか。そう、鼻で笑う。
 わたしたちが観始めたときにはもう終盤だった試合はすぐに終わった。井闥山の勝利。準々決勝進出、どうもおめでとうございます。ぽつりと喉の奥で呟きつつじっとコートの中にいる佐久早くんを見つめる。あの人、わたしの彼氏なんだよなあ。いまいちピンと来ないけど。
 突然、バチッと目が合った。びっくりして思わず隣にいる夜久の腕を掴んでしまうと、夜久がけらけら笑って「見てる見てる、めっちゃ見てる」と佐久早くんを指差す。人のことを指差すんじゃない。夜久の手を叩いていると海が「何か言ってないか?」とわたしの肩を叩きつつ佐久早くんのほうを指差す。だから、人のことを指差さないでください。海の手も払いつつ佐久早くんのほうを見ると、確かに口をぱくぱくさせていた。それからコートへの入り口のほうを指差す。どうやら来いというジェスチャーのようだった。
 黒尾が立ち上がって「は〜いスタンドア〜ップ」と茶化すようにわたしの腕を引っ張る。夜久の腕を掴んだままなので夜久こと引き上げられる。そのままなぜだかノリノリの三人に背中を押されつつ観覧席を後にする。なんでそんなに楽しそうなの。というか別に行かなくていいじゃん。そうぼやいたわたしに夜久が「試合終わりに彼女が来てくれたら嬉しいだろ」と言った。そういうものなのだろうか。いまいちピンと来なかった。だって、相手、あの佐久早聖臣だよ。笑っているところとか見たことがないし、楽しそうにしているところも見たことがない。わたしが会いに来たくらいで喜ばないだろうに。
 そうこうしているうちにロビーに降りてきてしまった。そのままアリーナ入り口のほうへ歩いていくと、準々決勝まで待ち時間となったであろう井闥山学院の集団が見えてきてしまう。ちょうど一時解散の号令がかかった後のようで、部員たちが散り散りに歩いていっている。そんな井闥山学院の集団に向かって黒尾が「飯綱〜お疲れさ〜ん」と面識がある飯綱くんに声をかけた。
 夜久と海もその会話に混ざっていく。わたしも一応後をついていくと、すぐさま捕まった。「ちゃん」と右側から声をかけてきたのはもちろん佐久早くん。近くにいた三年生の部員が目を丸くして驚いている顔も見えた。

「……お疲れ様です」
「うん」
「次も、まあ、頑張ってください」
「うん」

 うん、しか言わないのかよ。内心ちょっと拗ねつつ目を逸らすと、佐久早くんの後方から歩いて来たNo.1リベロの古森元也くんがひょこっとわたしを覗き込んで「すみません、喋るのが下手くそで」と笑いつつフォローを入れてきた。
 試合後すぐなので、薄ら汗をかいている。まだ試合中の熱気がどこかにあるような感じがしてちょっとどきっとしてしまった。

ちゃん」
「はいはい」
「こっち見て」

 黒尾たちと話していた飯綱くんが「何あれ、何なんだあの甘酸っぱい感じ?」と佐久早くんを指差して黒尾たちに聞いている。くつくつ笑いつつ夜久が経緯を説明しているらしい。勝手に人の話を広めるな。あとで怒ってやる。
 そっと佐久早くんのほうに顔を向ける。前髪が汗で額にくっついている。妙に気になって「汗、拭かないと冷えるよ」と指摘しておく。佐久早くんは「うん」と返事はしてくれたけれど動く様子はない。返事をした意味は。呆れつつ、どうしても気になったからハンドタオルを持った右手を伸ばす。佐久早くんはちょっとびっくりしたような顔をしたけどじっとしていてくれた。
 佐久早くんの汗を拭こうとして、手を止める。しまった、佐久早くんって人のタオルとかだめなタイプか。そもそも何を拭いたかも分からないタオルなんて余計に嫌だろうし余計なお世話だったな。
 反省しつつ手を引っ込めようとしたら、がしっと手首を掴まれた。びっくりして「え」と声をもらすと佐久早くんが目を丸くして「なんで拭かないの」と言った。

「え、いや、人のタオルで顔拭かれるの嫌でしょ」
「嫌じゃない」
「……あ、そう、ですか」

 ぱっと手を離してくれた。拭いてほしかったのだろうか。それとも自分で拭くのが面倒だっただけかな? よく分からないまま佐久早くんの額の汗を拭う。くっついていた前髪を手でさっと払ってやれば、ふわふわと定位置に戻ってくれた。佐久早くんはその間もずっとわたしの顔を見ていた。
 本当にずっと見つめられている。ぼんやりしているんだか熱烈なんだか分からない視線は落ち着かない。この視線の意味は一体何なのだろう。わたしの顔って変? 見てて飽きないとか思われているのだろうか。そう考えていると、佐久早くんが一つ瞬きをした。

「あのさ、わたしの顔ってそんなに見てて面白い?」
「面白くはない」
「あ、そうですか」
「でも、ずっと見ていたい」

 びっくりした。表情が固まって動かなくなったのが自分でも分かるし、佐久早くんの後ろにいる古森くんも驚愕の顔を浮かべている。他の井闥山の人も、黒尾たちも。

「……い、いや、ほら、別にわたし、かわいくないし、そんなわけないでしょ」
「かわいいから見てるわけじゃない」
「それはそれでちょっと複雑……」
「見たいから見てる」

 簡潔な言葉はかなり言葉が足りていない。正直もうちょっとちゃんと言ってほしいと思うけれど、これが佐久早くんなんだろうなとも思う。
 さすがに見られすぎて恥ずかしくなってきた。佐久早くんからそっぽを向く。思えば男の人にこんなふうにストレートな言葉を言われたのははじめてだ。照れても別に変じゃない。さっき佐久早くんの汗を拭ったタオルをぎゅっと握りしめた瞬間、佐久早くんの手がわたしの頬に触れた。そのままくいっと向きを変えられて、また佐久早くんのほうを向く羽目になった。

「こっち見てて」

 拗ねたような顔をされた。わたしが顔を背けたのがご不満だったらしい。なんか、子どもが拗ねているみたいな顔だな。バレーをしているときの佐久早聖臣とは違う顔。それをわたしが見ているなんて、不思議だな。ぼんやりそう思った。
 なんか、かわいいなこの人。思わず笑ってしまったら、佐久早くんが不思議そうに首を傾げた。それもなんかかわいい。ああ、ちょっと、癖になるかも。だってこの人かわいいんだもん。こんなに大きい体してるのに。
 笑いが止まらなくなったわたしを佐久早くんがきょとんとして見つめている。その顔もやっぱりかわいくて、思わず佐久早くんの腕を掴んで笑ってしまう。佐久早くんはハテナを飛ばしてはいたけれど、わたしの手を振り払わずただただこっちを見つめていた。


うわさのキヨオミくん