同じ学年の仲良しが声を掛け合って、結構な大所帯でプールに遊びに来た。みんな受験生だし、運動部部員は大会を控えているというのに。結構のんきなものだなあ。そんなふうに思ったけど、わたしも同じか。誘ってくれた友達に感謝だ。
 きゃっきゃと楽しそうにしている輪から少し外れて、わたしは大人しめグループと共にパラソルの下でお喋りをしている。一応水着は着ているけど、元から泳ぐつもりはあまりない。こういう楽しげな輪に交ざっているのが好きなだけだ。そもそも泳ぎはあんまり得意じゃない。
 プールで楽しそうにはしゃいでいるクラスメイトや他のクラスの人たちをぼんやり眺める。中には男子バレー部の及川くんも混ざっている。練習はオフなんだろう。たまにはこういう休息も大事なのかな。うちのバレー部は強豪で、練習がかなりきついと聞いた。束の間の休息。そんな感じだろう。
 その近くに岩泉くんの姿を見つけた。岩泉くんとは今、ちょうど席が隣同士だ。はじめは怖い人なのかと思っていたけど、近くで様子を見ていると男気があって頼りになる人だと分かった。まあ、とはいえ、わたしは人見知りだしあんまり人に話しかけにいくタイプじゃない。未だにあまり話したことがないままだ。
 楽しそうにしている姿。岩泉くんって、あんなふうにも笑うんだなあ。ぼんやりそう思った。



▽ ▲ ▽ ▲ ▽




 帰り際、持っていたはずのタオルを忘れてきたことに気付いた。更衣室に入る直前だったので、他の子たちには「先に行ってて」と言っておいた。小走りでパラソルを立てていた場所まで戻り、思った通りの場所でタオルを見つけた。一息つきながら更衣室のほうへ足を向けようとしたとき、「すみません」と声をかけられた。顔を上げると見知らぬ男性が三人。「はい」と答えたわたしに三人組の一人が「一人なの?」と聞いてきた。他の子もいるけど先に行ってもらっている、と素直に答えると、なぜだか会話がスタートしてしまった。
 もう夕方前で、プールもそろそろ営業終了になる時間帯だ。そんな時間帯に一体何の用だろうか。そう思っていると、「この後時間ある?」と聞かれた。さすがのわたしでもハッとした。それは、俗に言う、ナンパというやつなのでは。いや、まさか、わたしがそんなことされるわけないでしょ。でもそれ以外に何がある? そんなふうにちょっと動揺していると、三人組は「近くにおいしい店があってさ」と勝手に話を進めていく。躱すだけの技術がない。どうしよう。きゅっとタオルを握ってしまった。



 わたしの動揺を鎮めるような声だった。三人組の背後に来ていた岩泉くんが声をかけてくれたのだ。恥ずかしいところを見られてしまったけど、ちょっと安心してしまう。三人組は岩泉くんを振り返ると「なんだ、彼氏持ちか」と言ってあっさり去って行った。彼氏、ではない、ですが。今はそうしておいたほうが良さそうだ。岩泉くんには悪いけど否定せずに黙っておいた。

「大丈夫か?」
「あ、う、うん。ありがとう。ごめんね」

 岩泉くんはわたしの手元を見ると「忘れもんもうないか?」と聞いてきた。どうやら岩泉くんが混ざっていたグループも解散して、忘れ物チェックのようなことをしているらしい。少し離れたところに更衣室へ向かって歩いて行く集団を見つけた。

「絡まれてるみたいだったから声かけたけど、余計なことしたか?」
「全然! 本当にありがとう! 困ってたから……」
「ならいいけど」

 岩泉くんはじっとわたしを見てから「泳がなかったのか?」と不思議そうに言った。髪も濡れていないし、ずっと上着を着ているから分かったのだろう。笑いながら「あんまり泳ぐの好きじゃないから」と答えておいた。
 それもあるし、買ったはいいけど着てみてやっぱり恥ずかしくなった水着姿を見せるのが恥ずかしかったというか。まあ、一番はそれかもしれない。お店で見て一目惚れした白い水着。本当に女の子っぽくてかわいいのだけど、着てみたら、本当、かわいすぎたというか。自分じゃ似合っていない気がして後悔した。それを隠すための白いパーカー。今日は結局一度も脱がずにこの時間になってしまった。まあ、誰にも見られなくてよかったかな、とか。

「他の女子どもは写真とか撮ってたけど、は撮らないんだな」
「しゃ、写真なんてそんな。撮るの恥ずかしいしね」
「恥ずかしい? なんでだよ」

 心底よく分からない、みたいな顔をされてしまった。まさかそんなふうに返されると思わなくて慌ててしまう。他の子たちはスタイルがいいし、かわいいし、水着も似合っていたし撮りたくなるのは普通だけど。そんな卑屈なことをつらつらと並べてしまった。
 とりあえず黙って聞いていた岩泉くんは、わたしが「あ、えーっと、だから、わたしはいいかなって」と無理やり話を終わらせてから、もう一度心底よく分からない、みたいな顔をした。

「別にバランスが悪いわけじゃねえし、脚もまっすぐできれいだろ。何が恥ずかしいんだよ」

 さらっとそんなことを言われて、思わず顔が熱くなった。岩泉くんもハッとした顔をしてから顔を赤らめると「いや、違う、別に見てたわけじゃなくて」と慌て始めた。照れられると、余計にわたしも照れてしまう。二人であわあわしてしまった。
 遠くのほうから「岩ちゃーん、帰るよー」と及川くんの声が聞こえてきた。お互いハッと顔を見合わせて「あ、じゃあ、そういうことで」と無理やり話題を終了させる。岩泉くんも「おう」と気まずそうに返してから「更衣室行くだろ。行くぞ」と言ってくれた。まだちょっと照れつつ岩泉くんについていくと、及川くんが「あれ、さんだー」と笑いかけてくれた。
 白い水着、ちょっとくらい、活躍の場をあげてもよかったかなあ。岩泉くんの背中を見て、ぼんやり後悔してしまう。もちろんわたしでは似合わないとまだ思っている。思っているけど、ちょっとだけ、岩泉くんに見てもらいたかったな、なんて調子に乗って考えてしまった。


隠した乙女心
白色 × 岩泉一 × プール

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