十二月下旬。学校が休みに入った翔太とひかりが、わたしにも賢二郎にも内緒で突然帰ってきた。二人で予定を合わせていたらしい。でも、残念なことに賢二郎は仕事の付き合いで飲み会に行っている。まだ帰ってないよ、と苦笑いをこぼしたら残念そうにしていた。年明けまでいると言うので嬉しくて、ついついご飯を作りすぎてしまった。ひかりが笑って「お姉ちゃん気合い入れすぎ」と言ったけれど、二人で全部きれいに食べてくれる。嬉しくてずっと笑いが止まらなかった。
 今日は飲んでくる、と言っていた。タクシーか何かで帰ってくるつもりなのだろう。酔い覚ましに何か準備しておいたほうがいいかな。夜十一時を回った時計を見上げつつ考える。あんまり酔っ払って帰ってくることはないけど、今日はかなり遅いし多少は酔っているだろう。お風呂に一人で入れるくらいだと助かるんだけど。まあ、賢二郎がベロベロになっているところは見たことがないし、大丈夫か。そう思っているとちょうど庭に車が入ってきた。きっと賢二郎だろう。リビングを出て玄関で待機していると、階段の上から翔太とひかりが隠れつつ覗いていることに気付いた。あくまでサプライズのつもりらしい。普通に出迎えればいいのに。笑いながらオッケーのサインを送ると二人ともにっこり笑った。
 足音が近付いてきたと同時につっかけを履いて玄関の鍵を開ける。開けて顔を出すと、びっくりした。後輩と思われる男性に思いっきり肩を借りてふらふらの賢二郎がいたのだ。慌てて駆け寄ると「こんばんは。あの、すみません」と申し訳なさそうにされてしまった。

「ちょ、ちょっと、飲まされ過ぎちゃって……」
「あ、いえ! こちらこそ夫がすみません!」
「いえ、あの、僕のせいなんです。僕、お酒が苦手で……」

 お偉いさんに飲まされそうになっていたところを賢二郎が代わりに飲み始めたのだという。アルコールハラスメントだ。そうちょっと怒ってしまうわたしに「すみません、僕がはっきり苦手だって言えばよかったんですけど」と恐縮されてしまった。もちろんこの人のせいじゃない。慌てて「いえいえ!」とわたしも恐縮してしまった。
 ハッとした様子で顔を上げた。賢二郎は眠たそうにしつつも「歩ける」とはっきりした口調で言うと、後輩の肩から離れて一人で立った。思ったより酔っていないのだろうか。それともタクシーの中で結構醒めたのだろうか。どちらにせよ、歩けるくらい正気には戻っているらしい。後輩の人曰く「白布さん、お酒強いんですよ」とのことだったしあんまり酔わないタイプなのかも。
 後輩から鞄を受け取ると「気を付けて帰れよ」と先輩らしく見送る。ぺこぺこしつつ後輩の人がタクシーに戻ってから、くるりと玄関に歩き出した。しっかりしている。顔も赤くない。様子を窺っているわたしに気付いた賢二郎が「俺、酔うというよりは眠くなるタイプだから大丈夫」と言った。
 どうやら本当らしい。家に入る直前に「インターホンで誰か確認してから鍵は開けろよ」と注意されてしまった。た、確かに。「すみません」と笑いつつ謝って玄関のドアを閉める。翔太とひかり、そのうち階段を駆け下りてくるだろうな。しっかり靴も靴箱に隠している徹底ぶりにこっそり笑ってしまう。驚くかな。わたしまでドキドキしてきた。そう思いながらチェーンロックをかけていると、突然、後ろから覆い被さるように抱きつかれて「ひゃっ」と間抜けな声が出た。

「眠い。寒い」
「あ、あの、うん、分かった、分かったから、離れて。ね?」
「なんで」
「げ、玄関だし、あの、今はちょっと」

 見てるから、翔太とひかりが! そう思うと顔がどんどん熱くなっていく。それに気付いたらしい賢二郎がからかうように笑うと「照れてる」と囁く。それから余計に抱きしめる力を強めてきた。いや、そうじゃなくて。そうじゃないわけでもないんだけど。わたしが言ってしまうとサプライズじゃなくなるから言っていいものか分からなくて。あわあわしていると、首筋に軽く唇が当てられた。いや、あの、今はちょっと! 笑って誤魔化し続けるわたしに「なんでだよ」と笑うばかりの賢二郎。くるりと体の向きを変えられて、顔が近付いてきたから思いっきり手でガードしてしまった。口元を押さえられた賢二郎がちょっと不機嫌そうに「なんで?」と言う。これ、やっぱり酔ってるんじゃ? たじたじになっていると、あ、と思わず声が出た。賢二郎、あの、真後ろに。そう照れ笑いをこぼすわたしを不思議そうに見つめて「何? 酒臭い?」と見当違いなことを心配している。

「お、か、え、り〜?」
「……お、おかえり……ごめん、なんか」

 にこにこしているひかりと、もごもごと居づらそうにしている翔太。その声が聞こえた瞬間、ものすごい勢いで賢二郎がわたしから離れた。後ろを振り返ると一瞬で真顔になる。一つ間を開けてから「ただいま」ととんでもなく小さい声で呟く。

「へえ、あたしたちいないとそんな感じなんだ〜?」
「ひかり、マジでやめろ。さすがにからかうのはあれだって」
「え、だってあたしたちお姉ちゃん取られてるんだよ? これくらいいいじゃん。ねえ、賢二郎さん」
「……取ってねえよ。忘れろ。ごめん」
「忘れな〜い」

 からかう気満々のひかりの視線から逃げつつ、こそっと「なんで言わなかったんだよ」とわたしにクレームが入った。わたしまで照れつつ「だってサプライズだったから」と小声で返す。それが聞こえたらしい翔太が「本当ごめん……」と恥ずかしそうに呟いてそっぽを向いた。さすがの賢二郎も恥ずかしすぎたようで二人の顔を見られないようだった。
 恥ずかしそうにしつつ自室に鞄やコート、ジャケットなどを置いてきてからそそくさとお風呂に入っていった。ひかりがお腹を抱えて「やば、賢二郎さんのあんなとこはじめて見た」と終始からかうものだからちょっと可哀想になってしまう。翔太もわたしと同じように思ってくれたみたいで「あんまりからかうなってば」と照れながらもひかりを叱った。
 お医者さんに年末年始の休みはないものだと思っていたけど、二日間だけ休みを勝ち取ってきたと聞いている。恐らく呼び出しがあるだろうけど、という付け足しはあったけれど。それを翔太とひかりに話したら二人も嬉しそうにしてくれた。翔太が「姉ちゃんが一人だと寂しいかと思って帰ってきたけど、大丈夫そうだね」と言ってくれたのがわたしは嬉しくて。離れていてもわたしのことを考えてくれてるんだな、と感動してしまった。

「ねえねえ、お姉ちゃん」
「うん?」
「賢二郎さんと結婚して、幸せ?」

 ひかりがにこにこしてそう聞いてきた。でも、ちょっといつもと雰囲気が違う。高校入学前に寮まで送った日のように、どこか真剣な声色。ひかり、本当に心配してくれているんだな。心からわたしの幸せを願ってくれているのだ。染み入るように分かってしまった。分かってしまったから、笑わずにはいられなかった。

「これ以上ないくらい幸せだよ」

 ひかりが一瞬目を丸くした。でも、すぐにいつものかわいい笑顔に戻る。「なら、あたしも幸せ」と噛みしめるように言うと、なぜだか少し泣いた。なんで泣くの。わたしが笑いながらハンカチを渡すと「なんでも!」と笑ってくれた。翔太だけ置き去りにされたように不思議そうにしていたけれど、最終的には一緒に笑ってくれた。
 お風呂場のドアが開いた音がする。またドアが閉められてから足音がこっちに向かって来て、リビングのドアが開いた。賢二郎が髪を拭きながら「まだ寝ないのか」と言った。いつもならもうみんな寝ている時間だから、もう部屋に戻っていると思ったのだろう。

「ねえねえ賢二郎さん」
「何?」
「お姉ちゃん、幸せだって。よかったね」

 よかったね、って、賢二郎にかける言葉としては少し違和感があるような。不思議に思ったけれど、賢二郎がひかりに「そうか」と満足げに笑った。ひかりはそれを「うわー、ちょっとだけムカつく」と笑いながら言いつつ嬉しそうにしていたから、二人だけに通じる何かがあったのだろうと悟る。首を突っ込むのは野暮だ。そんなふうにあえて何も聞かないことにした。
 ひかりがあくびをこぼした。それを見た翔太が「もう寝るか」と言って立ち上がると、ひかりも「わたしも寝る〜」と一緒に立ち上がる。それから思い出したように「あたし明日デートで〜す」とわたしと賢二郎にピースを向けてきた。バッと勢いよく翔太が振り返って「拓也か」と忌々しそうに呟く。かわいい妹の彼氏、というのはいつまで経っても認められないらしい。ひかりが呆れた様子で「逆に拓也じゃなかったほうが嫌でしょ?」と笑った。
 翔太もこっちの友達と会う約束をしているらしい。じゃあ明日はわたし一人で留守番か。ちょっと寂しい。そんなふうに思ったけれど、二人が楽しそうなのが何よりも嬉しい。「楽しんできてね」と言ったら二人とも嬉しそうに笑ってくれた。
 二人が出て行った後、賢二郎が「相変わらず元気で安心した」と言う。子どもの頃からほとんど変わらない元気さにはこっちも元気をもらえる。笑いながら「ね」と返す。賢二郎はじっとリビングのドアを見つめてしばらく黙っていたけれど、視線をこちらに戻してから自然とその手がわたしの髪を触った。たぶん、翔太とひかりが下りてくる気配がないかを確認したのだろう。玄関でのことがよほど恥ずかしかったらしい。それなら触らなければいいのに。そんなふうにおかしくて笑っていると「なんだよ」と軽く睨まれてしまった。「何でもない」と誤魔化しつつ、賢二郎の手を避けつつ立ち上がる。

「わたしもそろそろ寝るね。明日何時に行くの?」
「朝のいつもの時間。たぶん帰りは遅くなる」
「分かった。じゃあ、おやすみ」
「え、何。自分の部屋で寝るのか?」
「そのつもりだけど?」
「なんで?」

 なんで、って翔太とひかりがいるからだけど? そんな質問をされるなんて思っていなくてこっちがびっくりしてしまった。賢二郎も賢二郎でわたしがそんなことを言い出すと思っていなかったそうでびっくりしている。

「なんで二人がいたら別々に寝るんだよ」
「だ、だって、一緒に寝てるって気付かれたら恥ずかしくない?」
「恥ずかしくねえよ。夫婦なんだし普通だろ」
「えー……そうかなあ……」

 そんなふうにわたしが苦笑いをこぼすと、賢二郎に腕を掴まれた。ずるずる引きずられていってリビングから出ると、ぽいっと階段の前で手を離される。「先に行ってろ」と言われてしまうと、嫌とは言いづらくて。なんでそんなに一緒に寝ようとするんだろう。「分かりました」と笑いつつ、階段をあがった。賢二郎は歯を磨きに洗面所へ向かっていった。
 わたしとしても一緒に寝たほうがぐっすり眠れる気がするから有難いけど、でもやっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいんだよなあ。そう苦笑いをこぼしつつ、賢二郎の部屋のドアノブを握った瞬間、ガチャッとドアが開いた音がした。ビクッと震えつつ振り返ると翔太がいて、バチッと目が合ってしまう。「あ」と思わず漏れたらしい翔太の声に「あ、えっと、おやすみ」と少し動揺してしまった。翔太も翔太でちょっと気まずそうに「お、おやすみ。俺トイレ」と謎の宣言をして階段を下りていった。動揺させてしまった。やっぱり恥ずかしいじゃんか、もう。ここにはいない賢二郎に文句を言いつつそそくさと部屋に入った。
 先にベッドに寝転がってから、賢二郎が部屋に来たのは大体十分後のことだった。あくびをこぼしつつ部屋に入ってくると「翔太と鉢合わせただろ」と苦笑いをこぼす。なんでも一階で会ったとき、翔太がとんでもなく気まずそうにしてきて首を傾げてしまったのだという。様子から予想して大体を把握したらしいけれど。賢二郎はおかしそうに笑いつつわたしの横に入って「あいつ、いつまで経っても中学生みたいでかわいいよな」と言った。
 スマホのアラームを設定して枕元に置くと、賢二郎の顔がこちらを向いた。「おやすみ」と優しい声で言ってくれたので「おやすみ」とわたしも返して電気が消える。いつもの夜と変わらない。もうずいぶん慣れたけれど、まだちょっとだけドキドキする。この少しのドキドキは永遠に消えないんだろうな。そんなふうに思うくらい体に馴染んでいるように思えた。
 ギシ、とベッドが軋む音。瞑っていた目を開けたら、目の前に賢二郎がいた。声を出す間もなく唇が重なると、あろうことか手が腰辺りを撫でてきたら思いっきり頭を叩いてしまう。

「痛いんだけど。嫌ならしないから、叩くな」
「ご、ごめん、びっくりして。まさかしようとすると思わなかったから」
「なんで?」
「時間が時間だし……何度も言うけど、翔太とひかりいるんだよ? 気付かれたら嫌でしょ」
「まあ気付かれたくはないけど」

 と、言いつつ手が退いていかない。苦笑いをこぼすわたしに賢二郎が「どうしても嫌?」と聞いてきた。どうしても、と、いうわけじゃないけど。こんなに積極的な人だったっけ、賢二郎って。
 毎日一緒に寝なくたっていいし、少しくらいこういうことをしなくても大丈夫でしょ? そんなふうにやんわりお断りを入れると、渋々手を引きつつ横に寝転び直す。ちょっと拗ねてる。ごめんね。頬を突きながらそう謝ったら「妻が冷たい」と恨み言を言われてしまった。

「ごめんってば。でも、二人がいる間だけだから。ちょっとだけ我慢して」
「我慢した先にいいことがあるなら我慢するけど」
「たとえば?」
「それは自分で考えろ」

 本格的に拗ねてしまった。これは参った。思わず苦笑いをこぼしてしまう。こんな人だったっけ、賢二郎。ここ最近たまにそう困惑することがよくある。突然くっついてきたり、突然駄々をこね出したり。ちょっと子どもっぽくなった気がするなあ、最近。別に嫌じゃないし、こういうときじゃなければかわいいから何でも許してしまうけれど。
 なんで最近くっついてくるの、と笑いながら聞いてみた。くっつくのはいいけど、包丁を持っているときはやめてね、とお願いしつつ。賢二郎はわたしの顔を見て「そんなにくっついてるか?」と不思議そうにする。大体くっついてきてるよ。そう指摘したら「あんま自覚ないけどな」と言った。嘘でしょ。あんなにずっとそばにいるのに。わたしがそうこぼすと「まあ、そうだとしても普通だろ」と言いつつあくびをこぼす。また普通、と言った。そうかなあ。何か不安なことがあるとかじゃないの? そんなふうに首を傾げるわたしに「ないよ」と答えて寝相を変えつつゆっくり目を閉じる。

「特別な理由なんてないだろ。好きだから近くにいたいだけ」

 そんなふうに言うとわたしの頭を撫でて「早く寝ろ」と言った。もう日付が回っている。さっきまで、そういうこと、しようとしてたくせに。ちょっと笑ってしまいながら「おやすみ」とわたしも頭を撫で返した。
 今日のお昼、再放送されていたテレビドラマを何気なく観たことを思い出す。主人公の女性と上司である男性のラブストーリーだった。男性は女性が入社してきた当初から一目惚れをしていて、あの手この手でどうにか女性と恋人になろうとしてくる、胸キュンシーンが多い純愛ドラマ、と紹介されていたっけ。でも、わたしはそのドラマを観てもいまいちキュンとしなかったし「言うほど純愛かな?」と首を傾げてしまった。だって、男性は女性に合意を得ていないのに突然キスをしたり、手は出さないにしても断れない状況を作って家に連れて帰ったりしていたし、全然女性を大事にしている感じがなかった。全体的に強引というか、女性の気持ちはどうでもいいって感じだった。純愛だなんてとんでもないけどなあ。そんなふうに思ってしまって、ふと、賢二郎の顔を思い出したっけ。
 目を瞑っている賢二郎の横顔を見つめる。あのテレビドラマの男性より、賢二郎のほうが、よっぽど純愛≠セ。ただただ、好きだという気持ちだけで一緒にいてくれた。何も見返りを求めず、ただただそばにいてくれた。それを特別な理由なんかない、なんて言って。十分特別だ。だって、あまりにもまっすぐすぎるから。そんなにまっすぐ愛を人に向けられる人は滅多にいない。簡単に真似できることじゃない。わたしが好きだと伝えてからもまっすぐに愛をくれた。形を変えながら、色を変えながら。わたしの気持ちに寄り添うように。それでも一貫して中身は変わっていない。まさに純愛≠わたしにくれていた。変な人。でも、すごく、愛しい人。そんなふうに笑ってしまう。
 思わず、目を瞑ったままの賢二郎にそっと口付けを落としてしまった。まだ起きていた賢二郎がすぐに目を開けて、わたしを見つめている。すごく驚かれてしまった。そういえば、わたしからしたのははじめてだったかも。ちょっと照れつつ「ごめん。今度こそおやすみなさい」と布団に潜り込む。賢二郎に背中を向けて少し体を丸めて息を吐く。
 なんでキスなんかしちゃったかな。我慢して、ってわたしから言ったのに。怒られるかも。そう苦笑いをこぼしていると、そっと、体に腕が回ってきた。きゅっと抱きしめられると「おやすみ」とだけまた言って、静かになった。賢二郎のことを好きになってから、男性という生き物は女性と同じベッドで眠るとそういう気分になってしまうということを理解した。触りたくなってしまうし、触ってほしくなってしまうものなのだ、と。それが普通のことだとも。それが分かって余計に賢二郎は純愛≠セけをわたしに向けてくれていたのだと思った。今だってただ抱きしめてくれるだけで何もしてこない。はじめてこのベッドで一緒に寝た日も何もしてこなかった。それに加えて、はじめて一緒に寝たときに賢二郎は「何かをするための準備もないから」と言っていた。間違ってもそういうことをするつもりはなかった、ということなのだと、今なら分かる。とても誠実に、純粋に、わたしを愛してくれていた。それを実感して今更嬉しかった。

「賢二郎」
「何」
「好きだよ」

 もう照れずに言える。それくらい当たり前のことになっているから。抱きしめてくれる手に自分の手を重ねたら、小さく笑った声が聞こえる。ほんの少しだけ眠たそうな声で「知ってる」と言って、わたしの手を握った。

「俺のほうが好きだけどな」

 ちょっと負けず嫌いだけど、混じりけのない純愛≠セ。わたしなんかがもらっちゃうのはもったいないくらいきれいで困ってしまう。でも、誰にも渡すつもりはない。わたしだけに向けてくれたものだからわたしがもらうのだ。そうでしょう、賢二郎。内心そう思いつつ、優しい体温に連れ去られるように眠りに落ちた。


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