※主人公の好きな人が白布であると発覚した後の他メンバーの話。
※白布出てきません。
※川西視点です。


 さんがちょっと照れたようなかわいい顔をして「ごめん、お手洗い」と言って逃げるように席を立ってしまった。残された俺たちはさんの背中が見えなくなるまで無言で見送り、その姿が見えなくなった瞬間、全員で目を合わせた。

「やばくない?」
「やばい、マジでやばい、どうする?」
「え、というか、え? 、白布っつった?」
「背番号十番セッターの白布賢二郎以外に白布っていたっけ」
「いないいない。え、いないよね?」
「少なくとも二年にはいないっスね」
「三年にもいねーわ」
「え、一年?」
「俺が知る限りいないですけど……」
「マジかよ、あの白布で間違いないわ」

 こんなことってある? 思わず呟いた天童さんの言葉に山形さんがぶんぶん首を横に振る。「ねーよ、普通は」と言い切る。その隣で瀬見さんも「ねーよ」と苦笑いをこぼしていた。
 いや、先輩方の反応は至極当然のものだ。こんなドラマもびっくりな展開が実際にあってたまるか。俺も全く気付かなかった。白布がさんのことが好きだということはもちろん知っていた。そういうこともあって、白布とさんが話していたり近くにいたりしたら無意識に見てしまっていた自覚もある。それでも気付かなかった。さん、どんだけ隠すの上手いんだよ。あんなの白布が気付かなくて当然だ。

「どうする? 根回しするか?」
「どのタイプの根回し?」
「え、白布お前のこと好きだぞって」
「ヤダ英太くんサイテ~!」
「瀬見さんそれは最低ですよ……」
「工まで?!」

 こそこそと大平さんが「いや、何もしないほうがいいんじゃないか?」と苦笑いをこぼした。まあ、下手にこっちがかき回して頓挫した日にはもうとんでもなく大事だが。白布は超がつくほど根性なしだし、さんは超がつくほど隠すのが上手い。このままでは平行線を保つだけで交わることは一生ない。断言できる。多少小石をぶつけるくらいの軌道修正は必要なわけだけど、その加減が難しいというかなんというか。

「白布が今から来るくらいが一番ちょうどいいんじゃないスか?」
「会わせるだけ会わせて後はお二人で~ってやつね」
「白布を呼ぶ、適当に二人だけ残して帰るって感じか」
「じゃあ飲み会終わり賢二郎に電話しよ~!」
「それくらいの時間ならちょっとくらい出てこられるだろうしな」

 こそこそと作戦会議をした結果、飲み会終わりの終電間近に白布を呼び出すということで決着。いい感じに終電を逃したらそのままゴールインの可能性もあるんじゃないか、という下衆な期待を含めている。まあ先輩方は楽しそうに「白布も男だしな」と話しているけど、俺の予想だとさすがに下衆なゴールインは絶対にない。白布のことだからどんだけ頑張っても告白して付き合うところまで辿り着くので精一杯だろう。いや、下衆ゴールを決めてくれてもいいんだけど。
 下衆な会話が繰り広げられそうな中さんが戻ってきた。全員が一斉に知らんふりして「何か追加注文する?」とかなんとか適当な会話に無理やり戻す。さんが座ると一緒にメニューを覗き込む。それを思わずじっと見てしまう俺がいる。うわ~、白布、お前両思いだったぞ~、なんていない白布にテレパシーを送りつつ。
 というか羨ましすぎないか? ずっと片思いしてた人が自分のことを好きだったんだぞ? しかもずっと。 そんなの脚本家も「ねーわ」と笑って書かないであろう、誰しもが妄想した結末だ。そんな馬鹿な。まさにそれでしかない。そんなとんでもなくハッピーな世界線だったら俺も主人公になりたいわ。すぐに立候補するっつーの。

「川西はいいの? 何も頼まないの?」
さんって白布のどこらへんが好きなんですか?」
「……え、それ、言わなきゃだめ?」
「太一、それ聞いちゃう? 鬼ダネ~」

 苦笑い。そりゃそうだ。でもここまで来たら全部知りたくなるのが人間というもの。白布が長年悩んでいるであろうさんのことを先に知ってやりたくなった。あまりにも羨ましいし悔しいから。いや、別に俺はさんのことが好きだったわけじゃないけど。男としてあまりにも憧れのシチュエーションすぎるから仕方がない。「ま、軽くどうぞ」とさんに言ったら「軽く言えないんだけど、この空気の中……」と苦笑いをこぼされた。

「え、えーっと」
「いいんだよ、ゆっくり考えれば。俺たちいつまでも待てるからね~ん」
「そう、だなあ」

 さんは〝適当〟ができない人だ。相応しい、の意味ではなくて、いい加減な、のほうの意味。何でもちゃんときっちりやらないと気が済まないところは高校生のときから変わらないらしい。今も必死に白布のどこが好きかを考えているようだ。また白布にテレパシーを送ってやる。残念だな、好きな人が自分のことを一生懸命考えている姿を見られなくて。悔しがる白布の顔をすぐに想像できてしまって、一人で笑ってしまう。
 考えていたさんがなんだか照れくさそうに笑った。答えが出たらしい。さあ、なんだ。意外と真面目なところか? 意外と優しいところか? 努力家なところか? そんなふうに少し楽しみに待っていると、さんは「あの」と言いつつ、また笑った。

「片思いの期間が長くて、たくさんあるから、まとめられないです……ごめんなさい……」

 さんが顔を手で覆って「ちょっと待って、すごく恥ずかしいこと言った気がする、忘れて」と死にそうな声で呟いた。それを呆然と見つめた俺を含めた全員、たぶん、思ったことは同じだろうと思う。何が何でもお前らのこと、くっつけてやるからな。きっとそれだった。


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