darling

合同合宿5(k)

※主人公いません。
※生川高校の湯河が片思いしており、学年が三年生の設定です。




「お、なんかすげー集まってんな?」

 風呂から上がって梟谷の部屋に戻ると、他校のやつらも結構な人数が集まっていた。木兎が「なんか集まってきた」と笑うと、黒尾が「勝手に群がったみたいな言い方すんな」と木兎を小突く。それに赤葦が「いや、勝手に群がってましたよね」とツッコミを入れると澤村が「確かに」と苦笑いをこぼした。
 特に理由はないらしい。それにしても、何かミーティング的なことをしているのかと思ったくらいの集まりようだ。自分の荷物を置いてから輪に入ると、どうやら生川の湯河が話の中心という名のターゲットになっているらしい。「マジでいい、俺のことはいいから」と照れながら逃げようとしている。

「何の話?」
「湯河が小学生のときから片思いしてるって話」
「これ以上広めんな!」

 逃げようとしている湯河を七沢が取り押さえている。まず強羅にバレて、その流れでここまで広まってしまったようだ。猿杙が「お前女の子に優しいんだしモテそうなのにな~」と真剣にアドバイスを考え始めると、黒尾や夜久まで「確かに」と考え始めた。

「というか、ここにいるやつ全員彼女いないのにアドバイスとかできなくないか?」
「確かに」
「あ、なら!」

 木兎がこっちを見た。すごく嫌な予感がするんですけど、わたくし。そんなふうにそうっと立ち上がろうとしたら、隣に座っていた鷲尾にがしっと腕を掴まれた。

「なんかアドバイスしてやれよ、木葉!」
「やっぱりかよ!」
「えっ、木葉って彼女いんの?! マジで?! 細目なのに?!」
「細目関係ねーわ!」

 けらけら笑う黒尾が「後輩彼女捕まえるコツ教えてくださ~い」と茶化してきた。小鹿野が「後輩かよ! いいな! ムカつく!」と俺の脚をバシンと叩いてきた。痛いんですけど。
 それを冷静に聞いていた赤葦が「いや、木葉さんにアドバイスはできないと思います」と辛辣に言い放つ。さすがに傷付く。俺もそう思うけど! そう喚いたら小見も「俺もそう思う」と苦笑いをこぼすものだから、がっくりしてしまった。人を話の中心に放り込んだくせに。そう一人で落ち込んでいると「なんで?」と菅原が不思議そうに首を傾げた。

「好きな子と両思いになれたんだから普通に上級者なんじゃないの?」
「いや、木葉の場合は初期から好感度がMAXだったから。初心者が神武器持って無双してた感じ」
「チートじゃん」
「おい、人のことを絶妙にたとえるな」

 楽しげに人の恋愛事情を話すな。そう照れつつ喋るやつの頭を叩いていると、最終的に彼女がだと悟られるわ告白の言葉やこれまでのすったもんだを事細かく聞かれるわ、で散々な目に遭ってしまう。勝手に喋っていく梟谷メンバーを全員締め上げていると、猿杙が「って結構序盤から木葉のこと気にしてたよな」と笑った。

「そうだっけ?」
「なんかやけに木葉のほう見てるな~って。五月くらいにはそんな感じだった気がする」
「あー、そうかも。最初の頃は木葉と喋るの緊張してるっぽかったよな」
「一目惚れだったんだろうな~」

 そうじみじみと小見が言う。そうして「よかったなあ」とまるで父親のように呟くと、東峰が「一目惚れ、いいなあ」と微笑ましそうに言った。いや、そうではない、けど。あの思い出は、あまりぺらぺら話したくなくて。適当に合わせておくことにした。

「いや、違いますよ」

 口を開いたのは意外にも赤葦だった。びっくりして思わず赤葦の顔を見ると、ばちっと目が合った。怖いんだけど。お前何言うつもりだ? というか赤葦が口を挟むってことは、事実を知っているから、とか? が何か話したのだろうか。赤葦とはかなり仲が良いし、二人でこそこそ何か話している姿もたまに見る。信頼している同輩、というポジションなのだろうからと気にしていなかった、けど。ほんの少しだけ、所謂嫉妬、みたいな気持ちを覚えるときはあった。

「え、じゃあなんで?」
「木葉さん、よくが困っているところを助けてたんですよ。力仕事してるときなんかは大抵いつも声を掛けてましたね」

 木兎が「そうだったっけ?」と首を傾げた。赤葦が「あんまり俺らがフォローできてなかったんで、ばつが悪くて覚えてます」と苦笑いをこぼした。そういうの本当によく見てるよな~。気恥ずかしくなってしまった。あと、てっきり俺とがはじめて出会ったあのエピソードを話すのかと思ったからちょっと安心した。
 一年生のころのは、明らかにしんどそうだった。慣れない力仕事やルールを知らないバレーボール。そういうのに毎日目を回しそうになっていた姿をよく覚えている。当時の俺はまだのことが好きだったというわけではないけど、後輩の女の子と仲良くなりたいという下心がある時期だった。それに、単純に困っているのなら力になりたかった。そんな大したことのない理由だけど、姿を見かければ声を掛けるようにしていたっけ。

「あと、あれやってるの見ました。一撃必殺のやつ」
「一撃必殺?」
「頭ポンポンするやつ、にやってました」
「木葉秋紀お前正座しろ」
「合意の上か? ちゃんと本人の許可を取ったやつか? とりあえず有罪でいいか?」
「なんでだよ! つーか俺そんなのやってたか?!」
「やってましたよ。何かあったら頼れよって言いながら」
「お前何イケメンぶってんの?」
「前日に少女漫画何冊読んだんだ?」
「うるせーよ!」

 他校のやつらもけらけら笑って「すげー、ドラマでしか観たことねーやつじゃん」と茶化してくる。ドラマでしか観たことがないやつで悪かったな。ちなみに俺もそんなことしたの覚えてないわ。そう赤葦を睨むと「だって俺見ましたもん」とふざけてかわいぶった口調で言った。
 本当はそれがきっかけじゃない、と、思うけど。このエピソードは一生俺の口からは人に話さないだろう。それくらい大事にしたいから。も同じ、だと思いたい。

「で、俺へのアドバイスある?」
「あっ、湯河のこと忘れてたわ」
「彼女ナシ野郎からのアドバイスはマジでいらないけど、彼女持ち野郎からは素直にほしい」
「学ぶ姿勢がしっかりしてやがる……」
「いやアドバイスとか言われてもな……」
「こっちは十年くらい片思いしてんだぞ。ちょっとくらい協力してやろうって思うだろ!」
「そんな嘆かれてもな……」

 俺がと付き合うまでにしたことってなんだっけ。一応真剣に思い出してみたけど、正直これといって思い当たるものがなかった。露骨な特別扱いをしていた自覚はないし、何かプレゼントとかサプライズを積極的にしたこともない。ただ、普通に好きな子として見ていただけ。そう考えながら答えたら、しん、と静まり返ってしまう。変なこと言ったか、と慌てていると「いや」と夜久が口を開いた。

「三年間ではじめて木葉がかっこよく見えたわ」
「失礼だな?!」
「俺もそんなこと言える男になりてーわ……」

 なんか、そういう反応をされると、逆に照れるんですが。そうたじたじになっていると湯河が「特別なことなんかしなくてもお前が特別なんだ、ってやつな……」と一人できれいにまとめていた。