darling

助っ人1

※主人公視点です。


 七月二週目の土曜日。今日は梟谷でいつものグループ校で合同練習が行われている。今年は宮城県の高校も参加することになっていて、つい先ほどマネージャーさんと挨拶を終えたばかりだ。他校のマネージャーさんたちにかおりちゃんと雪絵ちゃんが諸々の施設の説明をしている。わたしはその隣にくっついているだけだ。二人とも説明が上手だなあ、なんて思っていたら雪絵ちゃんが「来年はちゃんがやるんだよ~」なんて笑った。そっか、来年は二人とも、いないんだ。そう思ったらすごくすごく寂しくなって、きゅっと唇を噛んでしまった。
 諸々の説明が終わってそれぞれマネージャーさんが自分の学校の輪へ戻っていく。わたしたち三人も梟谷の輪に戻りつつ話していると、ふとかおりちゃんが視線をどこかに向けた。気になって一緒の方向に視線を向けたら赤色が見えた。音駒高校だ。主将さんが部員たちに何かを指示しているところだった。

「かおり~? どうしたの?」
「そういえば音駒の手伝い、誰が行くか決めてなかったなって。どうする?」

 雪絵ちゃんが「あ、確かに。じゃあ私行こっか?」と言った。そういえば他校のフォローをしてほしい、と木兎さんが頼まれていたっけ。すっかり忘れていたなあ。そんなふうに思っているとかおりちゃんと雪絵ちゃんがどっちが行くかの話し合いを進めていく。二人ともわたしより一年長く他校生と関わりがあるからかなり気心が知れている。そういう面からどっちかが行こうとしているのかもしれない。あれ、わたし、気を遣われているのでは? そう思ってハッとした。ここは後輩であるわたしが行くべきなのではないだろうか。それに、来年は、わたし一人になる。二人がいないという状況を練習しておくいい機会かもしれない。寂しいけれど、うじうじはしていられないのだ。そう思ったら「わたし行っても良いですか!」と手を挙げていた。

「えっ、ちゃん行っちゃうの?」
「良い経験になるかなと!」
「え~……どうする?」
「う~ん……」
「し、心配ですか?」

 わたし、ドジばっかりだもんなあ。他校に迷惑をかけたらって思われても仕方ないか。そうちょっと苦笑いをこぼしてしまう。するとかおりちゃんが「そうじゃなくてね?!」と笑ってブンブン首を横に振る。それからまた雪絵ちゃんと顔を見合わせてから、「じゃあ、お願いしちゃおっかな?」と言ってくれた。



▽ ▲ ▽ ▲ ▽




「え、いいの? めちゃくちゃ有難い話ですけども」

 人見知りのわたしが、ほとんど話しかけたことのない人に声をかけられました! そんなふうに一人で達成感を覚えつつ、ゆらりと立ち上がった音駒高校の主将さんに「はい!」と答える。もし良ければタオルとかボトルとかお手伝いしますよ、と声をかけたのだ。音駒高校の人たちはちょっと驚いていたけど、監督さんも含めて「ありがとうございます」と言ってくれた。
 自己紹介をしてから一年生の子に諸々教えてもらう。うちとスポドリの粉の種類も配合も違うな~、なんて新鮮に思いつつ一緒に準備をした。ジャグタンクも梟谷のものと少し違う。うちのよりサイズが少し小さいからなくならないように気を付けなくちゃ。そんなふうに考えつつ、ボトルを持って体育館に戻っていく。
 手に取ったボトルには「黒尾」と書かれていた。主将さんのだ。それを「どうぞ」と近寄って渡したら「どうもです」と笑った。それからちょっと間を開けて「これがマネージャーがいる部活か……」と感慨深そうに呟く。どうやらずっとマネージャーがいないらしい。結構楽しいけどなあ、マネージャー。そう思いつつ手に取ったボトルには「海」と書かれている。うみ、じゃなくてかい、さん。頭の中で覚えたばかりの名前を復唱しながら「どうぞ」とボトルを渡した。

さんはなんでバレー部のマネージャーをやろうと思ったの?」

 海さんの隣ですでに一年生の子からボトルを受け取ったらしい、夜久さん、に声をかけられた。なんで。そう聞かれてちょっと、うっ、とたじろいでしまう。説明が非常に難しい。難しい、し、ちゃんとその説明をしたことは今のところない。ぼんやりと話してしまった気がするけれど。
 わたしの様子を見た夜久さんは首を傾げて「あ、なんか聞いたらまずいやつ?」と言った。まずくはない。まずくは、ないんですけど。そうしどろもどろしつつ「孤爪」と書かれたボトルに視線を落とす。あ、この人は金髪のセッターさんだ。同じ二年生だったっけ。そう姿を探すと黒尾さんの隣にいたので「どうぞ」と渡す。びくっと肩が震えてから「どうも……」と小さな声が返ってきた。孤爪くんは人見知り。頭に書き留めつつ夜久さんに視線を戻した。

「まずいわけではないんですけど、なんというか」
「うん?」
「……か、かっこよかったから、ですかね?」

 わたしの返答に夜久さんは目を丸くしてから「え、なにそれ、めっちゃいいじゃん」と言った。いいんでしょうか。わたしとしては恥ずかしいんですけども。そう照れつつ頭をかいていると海さんが「うちにも来年入るといいな」と穏やかに笑った。