darling

涙のあと3(k)

 あれからマネージャー三人は、曜日制ではなく順番性という形で仕事を回すことにしたようだった。部活前も更衣室内でそれぞれの仕事の確認をし、仕事が終わったら二人のうちどちらかには報告する、というルールまで作り万全の体制を整えていた。
 整えていた、はずなのだが。

「すみません、本当にすみません、すぐ戻ります」

 何度も頭を下げてからが体育館から走って出て行く。その手には空のジャグタンクが二つ。その後ろ姿を見送る木兎が小さくため息をついた。
 連携ミスは減った。スポドリもタオルもしっかり準備されていることが多い。徹底してやっている姿には正直頭が下がるほどだ。それなのに。

「なんでだけミス減らないのかな?」

 がスポドリとタオル担当の日だけ、準備されていないのだ。準備されていない、もしくはスポドリの味が変だったりタオルが濡れていたり。そういうことがのときだけ起こる。さすがにこれにはマネージャー二人も参っているようで「ごめん……」と力なく俺たちに謝るにはフォローを入れているようだ。それにいつも「すみません、気をつけます」と本気で反省しているのに、また同じ繰り返し。さすがに違和感も覚えるが、不信感も覚えてしまっているようで。一年生の尾長でさえ心配そうにしているほどだ。「どうしちゃったんだろう、ちゃん……」と少し疲れたような声色で白福が呟いた。

「木葉、なんか聞いてない? 疲れてるとか悩んでるとか……」
「あ~……」

 気にはなっていた。なんとなく元気がないような、焦っているような。最近圧倒的に体育館内にいる時間が少なく、休憩中も仕事に追われていて話す機会がぐっと減ったが、表情で分かる。の様子が変なのだ。けれど、ここ最近ミスが続いたことによって仕事に集中したいのかも、と思って極力話しかけないようにしていたので理由は分からない。本当は聞きたいことがたくさんある。けれど、真剣に、まじめに、一生懸命に、ミスをなくそうと集中しているところを邪魔したくなかった。それを正直に話すとマネージャー二人も俺と同じだったようで。「ちゃん、最近口数が減ったんだよね」と寂しそうに言った。赤葦も続けて「休み時間、教室にいることが減りました」と言う。部活が終わった後はに苦い思いをさせたくなくて、極力部活以外の話をしているとマネージャー二人は言う。それは同じクラスの赤葦はもちろん、俺たち三年生も同じだ。部活の話をするとミスをは必ず謝る。最近は明るい顔をなかなか見られていないから、そういう気まずい思いをさせたくなくてわざと部活以外の話をしているのだ。

「でも、そろそろ切り込んだほうがいいっぽいな」
「そうだね……さすがに心配だし……」
「俺聞きましょうか。休み時間とか、部活外のほうがいいでしょうし」
「え」
「……木葉さん、聞いてくれますか?」
「う、あ、はい、聞きます」
「なんで照れてるんですか」

 苦笑いされた。それに猿杙が笑って「そこは自信持って名乗り出ろよ」と俺の背中を叩く。同じように他のメンツにも背中を叩かれた。
 そんな会話をしている中で、一人だけやけにそわそわしている尾長に気が付いた。俺と同時くらいに赤葦も気付いたのか「どうした?」と聞く。尾長は「へっ?!」と素っ頓狂な声を上げてから「な、なにがですか?」と分かりやすく動揺した。それを見逃さず小見が間合いを詰める。「その感じ、心当たりあるっしょ~?」とにこにこ笑って詰め寄り、猿杙もそれに続く。雀田、白福、鷲尾、木兎までもがそれに加わると、レギュラープラスマネージャー三年生陣に囲まれた一年生はただの子羊と化す。尾長は半泣きで「言います! 言いますからあ!」と必死で言った。