darling

赤葦の不満1

※赤葦視点です。


 様子を見るに、どうやら二人は付き合い始めた、というわけではなさそうだった。木葉さんから諸々の経過を聞いていたので知ってはいたのだが。

「なんで?」
「な、なんで……と言われましても……」
「なんでこうなった?」
「圧が……圧が怖いよ赤葦……」

 木葉さんがに告白する。は木葉さんのことが好き。二人は両想い。それなのに告白を断る。

「意味不明なんだけど」
「こ、断ってないよ!」

 いやいや。付き合ってないってことは断ったと同義なのでは? は俺の肩を軽く叩いて「怖いってば」と苦笑いをこぼす。
 俺たちとちょうど反対側の端に木兎さんたちと談笑している木葉さんがいる。その横顔は何の陰りもない。てっきりまた前のようにうじうじと悩んでいるのかと思ったのだが、オンオフはしっかり切り替えられるということなのだろうか。ただ昼に廊下ですれ違ったときもとくに変わった様子はなかった。とくにうじうじしている感じもなく無理をしている感じもなく。首を傾げつつそのあとに会った雀田さんに聞いてみたが、意外にも雀田さんは「あーそれなら大丈夫でしょ」と笑っていた。あんなに一緒にこの二人のことで頭を抱えたというのに。

「大丈夫だよ」

 小さく笑われる。は「心配しすぎだって」と俺の横腹を肘で突く。そりゃあ心配もするだろう。は俺から見ると、たぶん他の人が思っているよりとんでもなく不器用で、素直じゃなくて、卑屈なやつなのだ。そういう一面を見てしまったから余計に心配になってしまうわけで。

「……まあ、いいならいいんだけど」
「とにかく今は! 部活!!」
「はいはい」

 けらけら笑いながらマネージャー二人の輪に戻っていく。その背中を見送りつつ一つため息がこぼれた。本当にそれでいいのかどうなのか。極端に言えば部外者である自分が口を出すことではないのだけど、なんとなく疑問が残る。もし自分に好きな子がいたら、と考えたらなおさらだ。両想いなのなら付き合う以外の選択肢はあるのだろうか。何か特別な事情があればまた話は違うだろうけれど、そういうことは滅多にあることじゃない。二人は好き合っているのだし、あの木葉さんが告白をしたわけだし、付き合う以外の選択肢があるなんて思いもしなかった。正直あまり恋愛に興味があるほうではないからよく分からないだけなのかもしれないけれど。

「赤葦ー! 自主練付き合ってくれるだろ?!」
「はいはい、いま行きますよ」

 まあ、たしかに今は。そう思わず頭の中で呟く。と木葉さんのことを応援していないわけじゃないし、部内恋愛がどうだとかそういうことは一切思わない。そうだとしても、が言う「今は」という言葉は本当にその通りだと思う。木葉さんのことを第一に考えた、というか。後悔をしてほしくないとかそういう気持ちなのかもしれない。それでも少し残るこの違和感はなんなのだろう。難しく考えすぎなのだろうか。よく分からない。
 木兎さんは早々にボールを手に取り始めるので急いでシューズを履き直す。それをけらけら笑って見下ろしている木葉さんをじっと見上げる。木葉さんは少しだけ不思議そうな顔をしたのち、すぐに苦笑いをこぼした。「俺またなんかした?」と言った顔はいつもの木葉さんだ。とくに悩みはなさそうだ。本当にもう二人の中では解決していることなのだろう。ますますよく分からない。

「え、マジでなんかした?ごめんな?」
「いえ、何もしてないです」
「おーそれならよかった……じゃあなんでそんなガン見するんでしょうかね赤葦くん……?」
「何もしてないからです」
「えー……?」

 俺がどうこう思ったところでどうしようもないのだ。ひとまず考えることはやめることにする。木葉さんは首を傾げて「どういう……?」と考えてくれているが、とりあえず置いておくことにした。しばらく考えていた木葉さんも木兎さんの呼びかけでひとまず考えることをやめた様子だった。