darling

球技大会3(k)

※卓球部主将、名もなき木葉友人が数人しゃべります。


「すまん! 本当にすまん!!」

 卓球部主将はげらげら笑いながら「もういいってマジでふざけんな木葉」と言って腹を抱えている。それに土下座に近い形で謝罪し続けている俺をクラスメイトたちが笑いながら囲んでいる光景は、恐らく奇妙なものに違いない。
 卓球は一応準決勝まで勝ち進んだ。事件が起きたのはその準決勝の最終ゲーム。相手の二年生コンビに点数を取られたら負け、という絶体絶命のピンチの瞬間に起きた。相手の二人が卓球部ということもあり、終始劣勢に追い込まれていた。それをなんとかラリーを続け、長い長いラリーの中でまた俺にボールが回ってくる。少し気が抜けたらしい相手のミスだった。ふわっとしたボールが来たので卓球部主将に「いける!」と言われた。思いっきり行くぞ、と振りかぶった瞬間、すぽっとラケットが後方へ飛んでいき、卓球部主将の腹に直撃した。試合には負けるし、卓球部主将は苦悶の声をあげているし、俺は右手を卓球台に強打した。そんな幕引きだった。
 ちなみにバレーは三年二組が優勝した。小見と猿杙のクラスだ。優勝を狙っていた木兎のクラスは三位に終わり、木兎は終始ご機嫌斜めな様子で決勝を見ていた。決勝で三年二組と試合をしたのは意外にも二年六組の赤葦のクラスだった。試合の結果は完敗ではあったが、かなり健闘したほうだったと思う。
 ちなみにオセロ、は準決勝の一歩手前で負けてしまったそうだ。悔しそうにはしていたがすぐに切り替えて「バレー!応援しに行こう!」と言ってすぐに走っていったんだとか。その様子を見ていた女バレ連中とマネージャー二人から教えられて、ちょっと笑ってしまった。
 球技大会の全日程が終了し、二年生を残して一年生と三年生は下校となる。部活は休みだ。運営・進行を任されている二年生だけ片付けで残るようだった。ちょっと気の毒なような。そう思いつつクラスメイトとともに体育館から出ようとして気が付く。持ってきていたタオルを置き忘れたらしい。恐らく第三体育館に忘れてきたのだろう。クラスメイトに「先行ってて」と伝えつつ、第三体育館へ向かった。
 第三体育館を覗くとすでに卓球台やオセロは片付けられた後だった。落とし物として職員室に持っていかれたのだろうか。何の変哲もないただのタオルだから回収しなくても問題はないが、また母親に怒られるのは避けたい。まだいる二年生に聞いてみるか、と体育館に入ろうとしたときだった。

「あ、木葉さん!」
「うお、びっくりした」
「何してるんですか?」

 ゼッケンが入った箱を抱えただった。恐らく倉庫のほうへ置きに行くのだろう。前に倉庫に閉じ込められたことをからかってやろう、と一瞬思ったが口をつぐむ。恥ずかしそうにしていたし、怖がっていたんだから思い出させるのは避けたい。俺にとってはなんというか、印象深い思い出だったけどにとってはそうじゃないだろうし。

「タオルの落とし物とかあった? たぶんここに忘れたんだよな~」
「おっちょこちょいですね木葉さん」

 の頭を軽くはたきつつ「うるさいですさん」と言ったら笑われてしまった。そのあとでが体育館の中に向かって大きな声で「あのさー! タオルの忘れものってあったー?!」と突然叫んだ。中にいた二年生たちがびくっとして少し黙ってから、中の一人が「分かんないけど、あったらたぶんもう職員室だと思う!」と答える。はそれにまたしても大きな声で「ありがとー!」と叫んでから、俺の顔を見直す。「職員室ですね、たぶん」とけろっとした顔で言った。

「木葉さん?」

 は普段騒ぐことはあってもあまり大きな声を出したりはしない。叫ぶことなんてもちろんない。たぶんそういうのが苦手なのだろうと思っていた。見た感じ中にいた二年生たちはの友達というわけではなかった。は意外と人見知りで、はじめて話す人には緊張しているところを見たことがあるし、極力自分からは話さない。それなのに、そういうのはできるんだなあ。

「聞いてますか?」
「聞いてる聞いてる」
「……なんでにやにやしてるんですか?」
「いや」

 別に俺のためだからそうできたわけではないと思う。誰のためであってもは、誰かのためならその瞬間だけ苦手なこととかやりたくないことを忘れられる子なんだろう。俺が特別なわけじゃないと思う。けれど、そういうところが、俺はとても。

「好きだなあと思っただけ」