darling

球技大会2(k)

※卓球部主将、名もなき木葉友人が数人しゃべります。


 球技大会は予想通りの展開で進行している。俺のクラスは初戦で当たった小見と猿杙のクラスに負け、急造バレーチームは解散となった。バレーが終わると俺は妙な使命感を持って卓球に臨むだけだ。卓球部主将に「バレー残念だったな~」と苦笑いで声をかけられたので、こちらは笑って「まあ仕方ないって」と返しておいた。卓球部主将がいくつかアドバイスをくれたので頭の中に留めておく。すると、卓球部主将は「それにしてもうちのクラスに木葉いてよかったわ~」と呟いた。どういう意味かを聞くと、「大体なんでもそつなくこなせるし、いいやつだし?」と言われる。なんだそれ。若干照れつつ肩を叩いておいた。去年も一昨年も球技大会は卓球に出たらしいのだが、もともと部員が少ないせいもあり相棒に恵まれなかったらしい。やる気のある男なので負けることがたとえ球技大会とはいえ悔しかったのだろう。
 卓球が行われるのは第三体育館だ。数人のクラスメイトが冷やかし半分で応援についてくるというので、バスケそっちのけで第三体育館にぞろぞろと向かう。同じ体育館で行われるオセロはうちのクラスからは女子が出る予定だ。
 体育館に入るとすぐに出番が近いらしく係の二年生に声をかけられた。バレー部の後輩だったので流れを聞くと、どこか台が空いたら俺たちの試合らしい。ラケットを受け取って卓球部主将に諸々教わりつつその場で待つ。ふとステージで行われているオセロに目を向ける。じっと目を凝らしてみていると、一番端で真剣に盤を見つめているを見つけた。近くにはクラスメイトが何人かいてきゃっきゃと楽しそうにしている。女バレの二年もいて、どうやらクラスには友人が多いみたいで、なぜだかほっとした。しばらく見ているとゲームが終わったらしい。が両手をあげたので勝ったのだろう。嬉しそうな顔に思わず笑いがもれると、卓球部主将が不思議そうな顔をした。

「ごめん、知り合いがいたからつい」
「あのオセロやってる子だろ?」
「え、知ってんの?」
「彼女じゃないのか?」
「……ち、ちがいますけど~?」

 久しぶりに勘違いされた。ちょっと照れつつ目をそらすと卓球部主将は「は~なるほど」とにやける。嫌な予感しかない。卓球部主将はそのままにやけてはいるが何も言わない。その視線が若干居心地悪くて「なんだよ」と視線をそらしながら聞いてみるが、にやにやと笑ったままだ。
 バレー部の連中にこんなふうにからかわれるのは慣れている。日常茶飯事だし今更大袈裟に照れるようなことじゃない。けれど、相手が部外のやつになると話は違う。バレー部のやつらは俺とが仲がいいのを実際目で見てよく知っているからこそ、からかってきても理由は分かる。けれど、部外のやつは俺とが部活中にどんな会話をしているかとかそういうことは知らない。それなのに勘付かれてからかわれる、ということは、俺が何かしらそういう雰囲気を出してしまっているからに違いない。それが妙に恥ずかしくて未だ慣れられずにいる。
 そんなふうに居心地悪くその場に突っ立っている俺をが見つけたらしい。「あ!」とステージから声が聞こえたので思わず視線をそちらに向けると「木葉さんだ!」と満面の笑みを向けられた。そのまま周りにいるクラスメイトに少し声をかけたかと思うと、こちらに向かって小走りしてきた。余計ににやにやする卓球部主将の頭を叩きつつ「お疲れ」と声を掛けたら「お疲れ様です!」と返される。

「卓球出るんですか?」
「まあな~。バレー負けたし、あとがんばるのこれしかないわ」
「えっ負けちゃったんですか! というか試合もう終わったんですか!」
「ついさっき終わったけど」
「観たかったのに!」

 心底残念そうな顔をされた。それに吹き出しつつ「いつも部活で観てるだろ~」と言うが、はぶーぶーと文句を言っていた。
 そうこうしているうちに俺たちの番が回ってきた。は再び自分のオセロの番が来るまで見ていくらしく、いつの間にかやってきたクラスメイトとともに近くにいるままだ。ノリのよさは友人間で伝染するものなのか。しばらくするとこれまたノリのいい俺のクラスメイトが二年女子と話を始める。不思議な空間だ。そう思いつつ試合に集中する。
 卓球は正直体育の授業くらいでしかやったことがないのでろくにルールも分からない。一応先ほど一通り教えてはもらったが、バレーとちがって割と個人戦のような雰囲気のあるスポーツなので勝手が違う。力の加減に気を付けながらとにかく相手コートに戻すことだけに集中し続けている。先ほどから卓球部主将がさすがの腕前で点を決めまくってくれているので試合は優勢だ。何度でも言うが卓球部主将に恥をかかせるわけにはいかない。妙な使命感を抱えて慎重にラケットを振り続ける。

「ベアハッグちゃんさんっていうのか~。木葉周辺のやつには有名人だよ」
「そうなんですか? あとベアハッグちゃんって呼ばれてるんですかわたし」
「あの背後からのベアハッグが衝撃的すぎて」

 けらけらと談笑している。変なこと吹き込むなよ、絶対。試合に集中するように一つ息を吐く。

「細目の童貞だけどいいやつだからこれからもよろしくな」
「はい?」
「お前あとでぶっ飛ばすからな!!」

 あっ空振ったチクショウ! 元凶である友人をキッと睨み付けたがにやにや笑って「まあまあ」と言われた。あいつマジであとで覚えてろよマジで! 細目なのは認めるけど、ど、童貞じゃねえ! こともないけど! とにかく俺のことは置いておいて、それをにわざわざ言うやつがいるかよ?! 男子間のノリを女子にぶつけるな!
 友人を睨み付けていると卓球部主将が「まあまあ」となだめてくる。そうだ、今はこっちに集中しなければ。一つ息を吐いてからもう一度友人を睨んでおく。そのあとでそうっとのほうを見たが、にこにこと笑って首を傾げていた。