darling

球技大会1(k)

 球技大会前日。前日とはいえ体育祭ほど大きなイベントではないのでいつもどおり部活はある。ただいつもよりはほんの少しだけ早く切り上げて、きれいに掃除だけしておいてほしいと先生から言われているらしい。木兎は不満そうだったが、明日の球技大会のためだといえば機嫌は直った。
 赤葦曰く、赤葦のクラスが担当する設営と進行は、細かく分けると第一体育館に限定されるものだという。クラス委員長がバレー部副将の赤葦がいるから、と勝手にそういうふうにしていたらしく、クラスは赤葦を中心に動いているそうだ。明日は第一体育館内の設営をしたのち、トーナメント表への書き込みや審判などを赤葦のクラスが受け持つとのことだった。球技大会はそれぞれが通常の試合よりかなり短めの試合設定にしてあるとはいっても、なかなかボリュームのある内容だ。それに加えて設営だの進行だのしなければならないとなると、少し二年生がかわいそうな気もする。

「木葉さんはやっぱりバレーに出るんですか?」
「勝手にチーム入れられてたわ。まあいいけどな」
「木葉さんのクラスって他にバレー部いましたっけ?」
「雀田だけなんだよな~」

 それを横で聞いていた木兎が誇らしげに笑う。「まあうちのクラスは四人もいるけどな!!」と同じクラスのバレー部部員と肩を組んで高笑い。ちくしょう、俺のクラスだけバレー部選手一人とかおかしいだろ。俺のクラスは奇跡的な確率でバレー部が雀田と俺の二人しかいない。球技大会は男女で分かれて試合をするので、うちのクラスからはバレー部で出るのは俺だけということだ。うちのクラスはバスケ部の比率が多く、背の高いやつらはほとんどバスケに出てしまうのでかなり困った。掛け持ちで、と頼んだのだがバスケ部が多いということはバスケの試合は勝ち残る可能性が非常に高い。掛け持ちをして万が一両方勝ち進んだらそこで詰み、というわけなのだ。仕方なく文化部のやつらを中心にチームを作ったはいいがあまりに頼りない。一セットしかしないこともあり一回戦負けが濃厚だ。そのため俺は卓球を掛け持ちすることになっていて、正直そっちのほうが心配でたまらない。空いている運動部、というだけで選出されたのだが相方が卓球部主将なのだ。一回戦負けなんて結果を出させるわけにはいかない。そんな使命感に燃えている。

はなんでオセロにしたんだ?」
「え、オセロ楽しいじゃないですか」
「いやまあそうだけど……どっちかっていうとスポーツのほうが好きなんじゃないの?」
「スポーツは好きですよ、とても!」

 やっぱり。掛け持ちでもしているのかと聞いてみたが、はオセロ以外に出る予定はないらしい。バレーじゃなくてもドッジボールとかならあまり運動神経は関係なさそうだけど、は出ようと思わなかったのだろうか。一人で勝手にもやもやしているとはにこにこと笑いながら「でもオセロのほうが好きです」と意外なことを言った。

「こう見えてわたし、オセロ強いんですよ」

 自信満々な顔をしている。その顔がちょっと面白くて笑ってしまった。得意なこと、なのならば心配はない。一人で勝手にもやもやしていた俺が早とちりだっただけのことだ。ほっとしつつもやもやしていたものをきれいさっぱり片付けた。
 部活が終わり片付けとなる。ネットなどはそのままでいいとのことだったので片付けないまま、床を拭いたり勝手に触られてはまずい部活の備品を移動させたりすることになる。男女で体育館をちょうど半分ずつ使うとのことだったので間にネットをかけておくことにする。朝にやるとなると時間がかかるだろう、という顧問の提案だった。赤葦に確認したら「助かります」との返事があったので一年生が中心になって緑色のネットが体育館の真ん中にかけられた。
 一通りの片付け、掃除、多少の準備が終わると解散となる。今日は自主練禁止なので木兎も大人しく部室へ向かう。

「絶対俺のクラスが優勝間違いなしだな!」
「いや~? 二組を忘れてもらっちゃあ困るな~?」
「あっそうじゃん二組小見と猿杙いんじゃん!」
「赤葦はおろかセッターがいない木兎じゃ俺らには勝てないでしょ~」
「な、なんだとー!」

 けらけら笑いつつ部室に到着する。先に部室へ行っていたマネージャー陣がちょうど通りががると「お疲れ」と言って帰っていく。も雀田と白福に続いて「お疲れさまでした」と小さく会釈をして二人と歩いていく。
 去年の球技大会はたしか、まだと全然打ち解けていなくて話した記憶がない。最初のころは少し人見知りが強かったと今こんなにも打ち解けているのはなんだか不思議な感覚だ。明日も何かいい思い出ができればいい。にとってもそうだけど、俺にとっても。そんなことをこっそり誰かにお願いしつつ、部室へ入った。