darling

きみを知らない2.5(k)

※主人公出てきません。
※ほとんど木葉さんの語りです。
※試合中の様子が書きたかっただけなので、本編はあまり関係ないです。


 今日の赤葦は一言で表すと「鬼」だった。木兎の調子が本格的に悪くなり、いくら煽てても上がらなくなってきた。すると赤葦はまるで「鬼」のように木兎をとりあえず放ったらかしにして、どちらかというと調子の良い俺を中心にしてトスを上げ始める。それも木兎の調子を上げるための布石なのだが、珍しく俺に多めにトスを上げている。途中で気が付いたが、今日は猿杙はストレートがいまいち決まらず、鷲尾はいまいち跳べていない。尾長はまだチームの雰囲気についてこれていないので本調子が出ておらず、いつもどおりなのは俺だけというわけだった。リベロの小見はいつにも増してキレキレなレシーブをしてくれるのだが、スパイカーの大半が不調という絶望的なコンディションだ。俺もプレイ自体に不調は出ていないが、チームの不調に途中で気が付くという失態に内心で反省しているところである。
 コートチェンジの合間に赤葦が猿杙と鷲尾、尾長に声をかける。三人とも消化不良、といった表情をして赤葦に軽く謝っていた。木兎はというとどこか上の空だ。今日は本格的に調子が悪い。何が木兎を不調にさせているのか分からないので、下手に声はかけずにいるがそれでいいのだろうか。悩んでいると赤葦が俺に声をかけてきた。

「木葉さん、後半もいけますか」
「おー任せろ任せろ。どんなトスでも打ってやるよ」
「お願いします」

 俺には木兎のようなパワーはないし、猿杙のように守りつつ攻める能力が高いわけでもないし、鷲尾のように壁として立ちはだかることもあまりできなければ、尾長のように伸びしろはあまりないかもしれない。ただ、そういう個性の強いやつらの土台になって足りない部分をフォローすることはできる。俺一人では決して勝てない相手でも、強いやつらの中に俺がいれば勝てる相手になり得る。チームの主砲にはなれなくても、チームの華にはなれなくても。俺はこのチームの土台に必要な選手だという自覚は見失っていない。そういう、まあ、自分から人には言えないような自信なら、ひっそり隠し持っている。恐らく赤葦は俺が自分をそう評価していることに気が付いているだろう。決して口に出さないけれど。そういうところが怖くもあり頼もしい後輩セッターだと常々思う。

「木兎さんがあんな感じなので、恐らく他の人もそれにつられているんだと思います」
「たぶん無自覚だろうけど、多少は影響あるかもな」
「ここ最近で一番の不調ですから。しょぼくれいるわけではないので、本当に単純な不調ですね」
「しょぼくれなら対処できるんだけどな~。だから調子狂ってるんだろうな」

 苦笑いをこぼす。赤葦は小さくため息をついて「まあ、公式戦じゃなくてよかったです」と呟いた。たしかに。木兎の単純な不調への対処をどうするかが今後の課題に加わったわけだが、今日は今日としてどうにかしなければいけない。赤葦としてはとりあえず調子に乗らせるために、何かきっかけがほしいところだろう。チームにとっていい流れを作るか、はたまたピンチを迎えるか。木兎の場合は後者のほうが効果的だろうが、公式戦のことを考えると後者は危険すぎる賭けだ。赤葦としては前者で試したいという感じだろう。つまり、俺にいい流れをどうにか作ってほしい、と考えている可能性が高い。オールラウンダーでありどの項目を取っても飛び抜けたものがない俺にはなかなか厳しいことに違いはない。悔しい。悔しいけれど、そんなものはどうだっていい。チームが負けることのほうが悔しいに決まっているから、俺個人の悔しさは今はどうでもいいのだ。

「任せとけ。木兎みたいにはいかないだろうけど、どうにかしてやるって」
「……木葉さんって意外と男前ですよね」
「意外とは余計だろ?!」

 赤葦は笑って「頼りにしてます」と言って、木兎のほうへ歩いて行った。たまには素直に頼られるのもうれしいものだ。一つ息を吐いて伸びをする。さて、今日もチームの土台としてやることをやりますか。そんなふうに気合いを入れると、試合再開の合図が聞こえた。