darling

きみを知らない1(k)

※主人公の中学時代のクラスメイト数人が結構しゃべります。
※若干嫌なことを言われるシーンがあります。


 ゴールデンウィークに入り、梟谷学園高校男子バレー部は練習試合の嵐となった。例年どおりうちの高校に相手校を招いたり、逆に相手校に招かれたりの繰り返しである。一日に二校と練習試合をしたりもするのでそこそこきついスケジュールだ。入ったばかりの一年生たちは練習試合の量に驚きこそしていたが、試しではあるがメンバー入りできる可能性もあるとあって意気込み十分だ。
 ゴールデンウィークの二日目は少し離れた高校との練習試合だった。うちの高校の体育館は女子バレー部が先約を入れていたため、相手校の体育館でやることになった。公式戦ではないし、遠いと言っても一時間かかるような距離でもない。そのため現地集合となり、荷物などは監督が車で運んでくれることになった。
 相手校の正門に到着すると、すでに来ていたのはマネージャー陣だけだった。「おはよう」と声をかけると意外そうな顔をした雀田に「絶対赤葦が一番だと思ってたわ」と言われた。

「だってあんた遅刻魔だし」
「たった一度の過ちを引きずらないでいただけますか……」
「え、遅刻一回だけだっけ?」
「一年の初練習試合のときだけだっつーの!」

 相変わらずネタにされているそれに苦笑いをこぼす。白福も「えーもっとしてた気がしたんだけどな~」と言い出し、雀田が「だよね」と笑う。不名誉なイメージをつけられてしまったものだ。集合時間よりかなり早めに来ていることだって割とあるのだけど。
 雀田と白福がそんな会話をしている隣ではその話をなんだか妙な顔をして聞いている。無表情、というか、なんというか。あまり見ない表情だったので気にはなったが、何も聞かないまま「はいつもより近い場所の集合でよかったな」と声をかける。は梟谷学園集合だと通学と同じではあるが、そもそもが遠いのでいつも大変だろうと思っていたのだ。他校での集合にしても、大抵が梟谷学園までのルートとあまり変わらなかったり、もっと離れたりしてしまうし。今日は珍しくの家からそこまで遠くない高校での練習試合なのだ。

「そうですね。大体三十分くらいで着いちゃったので早く来すぎてしまいました」
ちゃん四十分前からいたんだよ?すごくない?」
「いつもの癖で、つい。でも早く来て正解でしたね!」
「なんで?」
「木葉さんも早く来ましたから!」
「平常運転で安心するわ~」

 けらけら雀田と白福に笑われるともいつもどおり笑った。さっきまでの表情がどういう意味のあるものだったのか気にはなったが、蒸し返すのも嫌で見なかったことにしておいた。
 そんなふうに四人で会話をしていると、高校の敷地内から「あれ?!」と大きな声が聞こえた。驚いて高校の中を見ると、自転車置き場のところにジャージ姿の女子生徒が数人いて、こちらを見ている。何か見つけたのだろうか。どうやら俺の知り合いではないので視線をマネージャー陣に戻すと、続けて「さんじゃん!」と甲高い声が響き渡った。女子生徒が数人こちらへ近寄ってくると「久しぶり~!元気だった?!」とテンション高めに話しかけてくる。どうやらの知り合いらしい。は一瞬だけ真顔になったが、すぐにいつもどおり笑って「久しぶり~」と返事をした。

「めっちゃ久しぶりじゃん~!」
「え、さん何してんの? というかなんでジャージ着てんの?」
「あ……えーっと、バレー部のマネージャーやってて、今日ここで練習試合があって……」
「え?! あのさんがバレー部のマネージャー?!」
「嘘でしょ、ウケるわ~!」

 手をばんばん叩いて笑うそのの知り合いに若干だけ不快感を覚えてしまった。笑い方がまるでを馬鹿にしているように見えたからだ。初対面の、俺にはまったく関係のないの知り合いをそんなふうに思ってしまったことに罪悪感を覚えてしまう。けど、なんだかの表情がいつもよりぎこちないように見えてしまう。

「え、てかさんって梟谷に行ったんだよね? あそこの男バレ強豪だったよね?」
さんよくマネにしてもらえたね~! だってバレーめちゃくちゃ下手だったじゃん!」
「体育の授業さんざんだったもんね~」
「……うん、本当にそうだよね~」
「私マジ忘れらんないもん、さんが打ったボールがさあ!」
「あー! それ私も覚えてる! 窓ガラスやっちゃったやつでしょ?」
「そーそー!」

 次第にその子たちの声がなんとなく耳障りになってきてしまう。もなんだか微妙な表情のまま笑い続けているけど、明らかにいつもとは様子がちがった。早くこの場からいなくなってくれないかなあ、なんて考えてしまってまた罪悪感に変わった。
 俺が横から口を挟むと空気が恐ろしいことになりそうだったので黙っておくことにする。その子たちはうるさい声でがどれだけスポーツができなかったかとか、よく転んでいたとか、そういうことをずっと話し続けている。はそれをすべて微妙な笑いで返して、どこか居心地悪そうなままだ。

「中でもあれは傑作だったわ、避難訓練で階段から落ちたやつ!」
「あーあれな、誰かがぶつかったやつでしょ? みんなで大爆笑だったよね~」
「そうそう、あのあとさんそのまま病院連れてかれてたよね~」
「小学校から一緒の子に聞いてたけど、マジでドジっていうかのろまなんだなーって思ったわ」

 ひとしきり笑ってからその子たちは「あ、もう時間だ」と言って戻り始める。最後に「元気でね!部の人に迷惑かけんなよ~」とに言って、校内へ消えて行った。残された俺たちはなんだか微妙な雰囲気を感じてはいたけど、あの子たちの姿が見えなくなった途端にいつもどおりが笑って「同じ中学だったんです」と言ったことにより、少しだけ雰囲気が和らいだ。

「なんかすごい言われようだったけど……」
「いいんです、全然! 小学生のときからそういうキャラだったので!」
「そうなの?」
「ドジでのろまだったので、よく面白がられてたんです。あ、いじめじゃないですよ」

 あくまで明るくいつもどおりには言った。雀田と白福はほっとしたように「そんなことないのにね~」と笑って言葉を返していたが、俺だけはなぜだか不快感が残ったままだった。