darling

ライバル?6

※主人公視点です。
※モブちゃんが薄っすらいます。


 相手校さんに諸々の挨拶を済ませ、体育館前で相手校さんを見送った。練習試合は無事勝利で終了した。赤葦がレギュラー陣では一番ほっとしたようだった。新しくレギュラーに入った尾長くんと練習した成果がしっかり出ていたことへの安堵だろう。それを他のレギュラー陣が労わると、少し緊張気味だった赤葦がようやく表情を緩めた。
 午後も体育館はそのままバレー部が使ってもいいそうなのだが、とくに練習は組まれていない。練習試合があった休日は大体そのパターンが多い。しっかり休むもよし、好きなだけ練習をするのもよし。とくにレギュラー陣は大抵残って練習をしていくので、マネージャー陣も用事がない限りは残っていくことが常だ。いつも通り相手校さんを見送ってから体育館へ戻り、何か仕事はないかと体育館を見渡す。さっきスポドリは補充したからまだ大丈夫だろうし、床掃除は一年生の子が率先してやってくれている。試合で使った諸々の備品はわたしが別のことをしている間にかおりちゃんと雪絵ちゃんが片付けてくれた。どうやら手持ち無沙汰になってしまったようだった。とりあえず隅っこで様子を窺うことにする。
 体育館の真ん中くらいで木兎さん、赤葦、女バレの主将、副将、三年生の人たちが楽し気に話している。その向こう側では猿杙さん、小見さん、鷲尾さん、そして今井さんの四人が話していた。そこまで見て、あれ、と首を傾げてしまう。てっきり今井さんがいる輪にいるものだと思っていた木葉さんがいない。かおりちゃんたちを手伝って外に出ているのだろうか。もう一度体育館をきょろきょろ見渡すけれどどこにも見当たらない。どこ行ったんだろう。

「何をお探しで?」
「うわあ!?」
全然気付かないの、本当笑い堪えるのやばかったわ」

 いつの間にか木葉さんがわたしの近くで三角座りをしていた。のそのそと立ち上がると木葉さんは「仕事終わった?」と笑う。それに「え、あ、まあ、一応」となぜかしどろもどろで返してしまうと、木葉さんはちょっと不思議そうな顔をした。わたしの横で壁にもたれかかると「なんかあった?」と追加で質問をされてしまう。
 なんか、を話せるわけもない。身長が伸びてほしいんです、とか、今井さんみたいになりたいんです、とか。そんなことを言えるわけがなく、へらりと笑って「なにもないですよ~」と言うしかできないのだ。

「え~本当にか~? なんか今日元気ないじゃん」
「そんなことないですよー!」
「ものすごく目線が逸れてますけど、さん」

 顔を覗き込まれる。木葉さんは「体調悪いとか?」といろいろ心配してくれている様子で、なんだか申し訳なくなってしまう。どうしようもできないことで落ち込んだり気にしたりしてるだけなんです。心の中でそう謝りつつ「なんでもないですってば」と木葉さんの額を軽く手で押す。

「ならいいけどさ~」
「それよりいいんですか?」
「え、なにが?」
「あっち、混ざらなくて」

 今井さんたちがいるほうを指さす。木葉さんはちらりとそちらへ視線を向けて、すぐにわたしに視線を戻した。「おーあれはあれでいいのです」と妙に作った口調で言った木葉さんの顔はなぜだか満足げだ。

「で、でも、ほら、あれじゃないですか。木葉さん、今井さんと」
「え、今井さんがなに?」
「……い、今井さんに、猛アタックしかけといたほうがいいんじゃないでしょうか!」

 じゃないととられちゃいますよ、なんてね。そう付け加える。へらへら笑って言ったので木葉さんも「おう、そうするわ」と軽めに返してくれるんじゃないかな、と思っていたのに。木葉さんはわたしの顔を見て思いっきりはてなを飛ばしているらしかった。

「いやいやいやいやいやいや……」
「本当にお似合いですよ! し、身長とかもそうですけど、今井さん、かわいいですし……」
も気付いてないかー」
「え、なにをですか?」
「今井さん、猿杙と仲良くなりたいんだと」
「………………はい?」
「たぶん後輩的に猿杙ってちょっと話しかけにくいだろ? だから俺がパイプ役やってた感じ」

 「あんまり人に言えないしさー、苦労したわ」と木葉さんは苦笑いをこぼした。木葉さんがいれば猿杙さんがいても輪に入って来やすい、ということで入り口の役割をやっていたらしい。木葉さんがいることで今井さんの緊張も解け、明るく話せるようだったから緩和剤的な役割も兼ねていたのだと木葉さんは笑った。猿杙さんは人見知りというわけではないのだけど、人と打ち解けるまでに少し時間がかかるタイプらしい。そうして今日、ようやく若干打ち解けたようだったのだ。

「だから俺はお役御免ってわけ」
「そ、そうだった、んですか……」
「そうだったんです。結構頑張ったっしょ、俺」

 木葉さんが笑ってわたしの顔をまた覗き込む。

「俺はくらいの子がちょうどいいんだよなー」
「え」
「鷲尾とか猿杙は背が高い女子のほうが喋りやすいって言うんだけどさ。俺はくらいのほうがなんかこう、自然体で喋れるんだよな」

 「顎置きにもなるしな~」と茶化すように言う。一応肘のあたりを叩いておくと木葉さんは「置かないって」とまた笑った。

くらいの子、っていうかだからか」

 けらけら笑って、とんでもないことを言う。木葉さんは「まあにとっては首痛い相手かもしんないけど」と言いつつ、わたしの顔をまた見る。細い目が余計に細くなると、なんだか優しく笑われた。

「ちょうどいいなあ」