darling

ライバル?4

※主人公視点です。
※モブちゃんが薄ぼんやりいます。


 いいなあ。
 自分でも知らない間に飛び出て行った言葉。隣にいた赤葦の耳に届いてしまったようで「なにが?」と首を傾げられた。まさか声に出ているなんて気が付かなかったから「え、なにが?」と聞き返す。赤葦は無慈悲にもわたしの頭にチョップをかましてから「いや、いま喋っただろ」と冷静にツッコんできた。あ、わたし、声に出ちゃってたのか。反省しつつ苦笑いをこぼす。

「べつに~」
「第一候補、同じ選手だから話が合っていいなあ。第二候補、美人でスタイルが良くていいなあ。第三候補、あんなふうに自然に話しかけられていいなあ」
「赤葦ちょっと黙ってて」

 横腹にお返しのチョップを入れてやる。痛くもかゆくもなかったらしい赤葦が、珍しく得意げに笑った。「全部か」、そう呟いた声にさらにもう一つチョップを入れてやる。

「赤葦は150cmくらいの子と170cmくらいの子だったらどっちがいい?」
「ピジョットとリザードンか……」
「赤葦、わたし怒るよ?」

 赤葦は少しだけ笑ったのち「冗談だよ」と呟いた。そうして少し考えはじめると、何度かわたしを見たり別のほうを見たりしはじめる。
 実際わたしの身長もあの子の身長ももう少しちがうのだけど。はっきり自分とあの子の身長を言うのが恥ずかしかったから変えて言ったのに。赤葦はもう誰と誰のことなのかなんて当然のように分かっている。それが悔しいような恥ずかしいような。

「まあ、首は痛い」
「……だよね~!」
「首は痛いけど、だからって150cmくらいの子が嫌とは思わない」
「……で、でも」
「首が痛いからって170cmの子を選ぶような人じゃないと思うよ」

 こつん、と頭を叩かれる。視線の先にいる、あの子の笑顔が少しだけ、胸に痛い。練習試合の応援に来てくれたというあの子はずっと同じ場所で話し続けている。いつもの居場所がなくなったわたしは赤葦の隣に避難したのだけど。どうしても視線がそっちに向いてしまう。
 かわいくてモデルみたいにスタイルが良くて、明るくにこにことしていて、同じスポーツに熱中している女の子。それはとても魅力的に見えるんだろうなあ。わたしは背も高くないし、別にかわいくもなければ、あんなふうに女の子らしくふるまうこともできないし、運動音痴なのろま。あの子と自分を比べれば比べるほど、わたしってなにが取り柄なんだろうって考えてしまう。
 いいなあ。今度はちゃんと喉の奥で呟いた。誰にも聞こえなかった声はわたしの中で何度も響いては、何度も何度も外に出ようとする。

「話に入ってくれば?」
「え、えー……だって二人で楽しそうに話してるから、邪魔したら悪いし……」
「でもも話したいんだろ」

 赤葦ってどうしてたまにものすごく強気になるんだろう。心底不思議そうな顔をして「なんでが遠慮してるのかが分からない」と呟く。いろいろ例を出して説明したけれど、赤葦の回答は「空気を読めていれば問題ない」というばっさりしたものだった。いや、話しかけること自体が空気を読めてないと思うのだけど。そう心の中で呟く。赤葦は基本的にはものすごく空気が読める気遣いのできる人なのだけど、ときたまにわざとなのか空気をぶち壊すときがある。今もそれを発動中なのかもしれない。

「というか」
「うん?」
「あれはどちらかというと話しかけたほうがいい空気だと思うけど」
「……え、どこが?」
って見てるようで見てないよな。大事なところだけ」
「え、なにが?どういうこと?」

 赤葦はわたしを見下ろしながらため息をつく。え、なんでため息つかれたの?そのため息を意味が分からず無反応でいると、赤葦がわたしの背中を「いいから行ってこい」と乱暴に押した。