darling

まだ

※赤葦視点です。


 この二人の鈍いのかわざとなのか、はたまたそもそも分かっていないのか、こちらもよく分からないかまし合いには若干疲れる。
 若干顔を赤くした木葉さんがふらふらと立ち去っていく。それを見た尾長が「俺も上がります! あざした!」と俺に頭を下げる。もう少し休憩しておきたいので俺は座ったままでいると、もそのまま俺の隣に座った。「赤葦大丈夫?」と聞いてくる顔から察するに、も木葉さんの発言には気付いていないようだった。

「大丈夫。も先帰っていいよ」
「わたしもちょっと休憩したいだけです~」

 けらけら笑うその顔に若干むかついたので頭をぐりぐりしてやる。は「え、なんか怒ってる?」と首を傾げた。

の耳ってちゃんと聞こえてる?」
「唐突にひどいね?!」

 は「聞こえてるよ!」と笑いながら俺の手を払う。いや、聞こえてないだろ。心の中でそう言いつつ「はいはい」と口で返しておく。は少し不思議そうな顔をしたが特にそれ以上は追及してこなかった。持っていたタオルで首元の汗を拭きながらなぜだか天井を見上げるが小さく息を吐く。ここ最近は新しい部員が増えたこともあって、やっていることは変わらないはずなのに二、三年生は少し疲労がたまっているように見える。木兎さんですら少し疲れを見せるときがあるのでその辺りを気を付けて見ているつもりではあるのだけど。もその中の一人のようで。新しいマネージャーが入って来なかったこともあって、少し落ち込んでいる様子だったし余計に元気が出ないのかもしれない。

「楽しいなあ」
「は?」
「え、楽しくない?」
「いや、ごめん、あまりにも唐突すぎてびっくりした」

 はけらけら笑って「ごめんごめん」と言う。体育館の天井を見上げている目はきらきらと光っている。体育館の灯りのせいだといえばそうなのだけど。なんとなくそれが特別なものに見えてしまったのはなぜなのだろうか。

「仲間が増えてやりたいこととかできないことが増えて」
「増えすぎて毎日目が回りそうだけどね」
「でも楽しくない?」
「……まあ、それなりには」

 は立ち上がって一つ伸びをする。また天井を見上げてから息を吐いて、俺の顔を見下ろした。にこにこと笑った顔は心の底から笑っているもので、なんとなく潔さを感じたほどだ。

「今はみんなで同じところを目指してひたすら走ってるのが一番楽しいよ」

 「さて、帰ろう帰ろう~」とが視線を逸らして歩き始める。もうすでに体育館の片付けは終わっているのであとは鍵を閉めて帰るだけだ。が鍵置き場から鍵を取り出しつつ「赤葦も帰るでしょ?」とこちらを振り返った。
 今は、ね。思わず笑ってしまうとが不思議そうな顔をしつつ「え、何?」と首を傾げる。それはわざとなのか、はたまた何も考えていないのか。真意の分からないその言葉は聞き流しておくことにした。今はあまりお節介をせず見守るに徹したほうがにとっても木葉さんにとってもいいことなのかもしれない。今度雀田先輩と白福先輩にも話してみようか。そんなことを思いつつ立ち上がった。