darling

気付いてくれた2(k)

 新入部員たちにいろいろ部活のことを教えつつ、なんだか新鮮な部活が進行していく。今年はなかなかいい人材がそろったらしい。監督が上機嫌なので今年の勧誘は大成功と言っていいのだろう。新入生の中だと尾長が身長が高くて上手いのでレギュラー入りが一番有力だろうか。先ほどからちょこちょこ赤葦と練習を組まされている辺り、セッターである赤葦ととりあえず息を合わせさせようとしているのはなんとなく分かる。
 一旦休憩を挟むことになる。汗を拭いつつボトルを手に取ると、「ねえ」と白福に声をかけられた。

「何?」
ちゃんまだ帰ってきてないよね?」
「え、あーそういえばそうだな……古い倉庫遠いしな……」

 紛れ込んでいた得点板を古い倉庫にしまいに行ったの姿がない。倉庫までは結構離れているし、一人で行っているからもしかしたら休み休み行っているのだろうか。はいつだって外に出る仕事は最小限の時間で済ませるようにしているらしかった。いつだってダッシュしているし、そんなに急がなくてもいいのにと思うほど急いでいる。体育館の中で雀田や白福の仕事を手伝いたいという気持ちがあるのだろうが、もっとゆっくりマイペースでいいのになあといつも思う。さすがに今日は得点板が軽いとはいえ、一人で運ぶのはなかなか大変だろう。時間がかかってしまって焦っているの姿が思い浮かんでちょっと苦笑いをもらしてしまった。

「様子見てこようかな~……でもかおり一人になっちゃうし……」
「あーこのあと試合形式だもんな……」

 そんな話をしていると赤葦が「じゃあ俺見てきます」と言い出した。なんでも試合形式の一発目、赤葦は不参加らしいのだ。珍しいこともあるものだ、と思ったけれどどうやら一年生のセッターがどんなものか監督が見ておきたいということのようだ。「古い倉庫って校舎横のやつですよね?」と確認をしてから赤葦がボトルやタオルを置いて歩いていく。
 赤葦が体育館から出ていくのを見かけた木兎が「え、赤葦どこ行くの?」と不思議そうな顔をする。説明すると「そういや遅いな」と納得したようだった。

「一人で行かしたのがまずかったか~……。小さいもんなー」

 反省しているらしい。いや、木兎のせいではないのだけど。木兎も主将として責任感が強くなっているということなのだろう。できることならこの姿を赤葦に見せてやりたかったものだ。
 戻ってきた監督が赤葦がいないことを不思議がったが説明すると木兎と同じような反応をした。まあ、赤葦といっしょに帰って来るだろうと苦笑いをこぼしてから、試合形式の練習が開始された。



▽ ▲ ▽ ▲ ▽




 練習が再開してから約十分ほどしてから赤葦が帰ってきた。俺たちの予想とは反して赤葦の隣にがいることはなかった。試合中なので話を聞きには行けないが、雀田と白福が赤葦に話を聞いている様子から察するに、どうやらのことを見つけられなかったらしかった。
 ここからが向かったであろう古い倉庫は十分もあれば余裕で行ける距離にある。まさか赤葦がの姿を見過ごしたとも思えない。

「木葉! ぼけっとすんなー!」

 小見からそう言われてはっとする。のことが気にはなったが、練習中だ。ボールに集中して、試合に集中して。試合が終わって気付いたらがいる。きっとそうなるだろうと自分に言い聞かせて木兎のサーブに備えた。