darling

春季合宿5.5

※雀田視点です。
※マネージャーしか出てきません。
※木葉視点の春季合宿を元に書いています。先にそちらを読んだ方が分かりやすいです。


 洗濯ものをすべて乾燥機に入れ終わって帰ってきたちゃんは、それはもうものすごくかわいらしい顔をして帰ってきた。内心「あらあら~」とまるで姉にでもなかったかのような気持ちになりつつ、雪絵と目を合わせて「ふふ」と思わず笑ってしまった。
 ちゃんは思い出したように「ぜんぶ乾燥機に放り込み終わりました!」と笑う。まだほんのり赤い頬には気づかなかったふりをして、「ありがとう」と笑い返す。さっき監督からもらったゼリーの差し入れを机に広げて食べようと言えばちゃんも座布団に座った。雪絵が桃、私がみかん、ちゃんがぶどうのゼリーを食べつつなんでもない話を始める。話しつつ、私も雪絵も気になって仕方ないのは木葉との件だ。けれど私も雪絵もちゃんが木葉のことが好きなのだとは分かっているが、本人からその話を振られたことがないのでなかなか切り出せない。ホワイトデーのお返しをもらったなんてことは本人たちしか知らない、ということになっているので余計にだ。いや、それでも聞きたい。うずうずしつつ「ゼリーおいしいね~」とどうでもいい話を続ける。「明日の朝食うちらの担当だよね~朝起こして~」だの「わかったわかった」だの、私も雪絵もいつも通り話しているが、内心はもうそわそわが止まらない。
 木葉とちゃんは本当、見ていてものすごくじれったい。両想いなのに木葉はちゃんの好きはマスコット的な意味で、とか訳の分からないことを言いだすし。あんた自分がマスコットみたいにかわいいと思ってんの? 笑止。何度そうトークを送ったことか。聞く耳を持たないその頑固な姿勢にはイライラしていたのだ。
 ちゃんも、赤葦にひっそり聞いた話では「わたしなんか」「木葉さんを困らせたくない」だの言っていたそうだが、それも笑止。二人とも鈍感すぎて永遠にすれ違っていそうだったので、こうして強硬手段に出たわけだが。ちょこっと進展したっぽいし、大成功ということにしておこう。雪絵も同じようなことを考えていたらしく、ゼリーを食べるちゃんを微笑ましそうに見つめている。
 そんなときだった。ちゃんは食べ終わったゼリーの容器と付属のスプーンをそっと机に置いて「あの」と言いづらそうに口を開けた。

「どうしたの?」
「あの……これ、の、結び方を、教えてほしいんですけど」

 ちゃんがおずおずと机の上に出したのは、恐らく木葉があげたらしい髪ゴムだった。ちゃん曰く、自分でこういうものをあまり付けないからいまいち付け方が分からないとのことだった。なにそれ、ちょうかわいいんですけど。そりゃ木葉もあんなふうになるわ。
 それにしても木葉、なかなかいい趣味をしていると思うのは私だけだろうか。色もちゃんが好きな色、デザインも派手すぎず地味過ぎないちょうどいいかわいさ。ちゃんがこういうものをあまり付けないと知っていてなのか、一番難易度の低い飾り付きゴムという選択。偶然だとしてもものすごく気が利いているしちゃんのことをよく見ている。やるじゃん、木葉。

「いいよ~やってみよっか。簡単だからすぐできるようになるよ~」
ちゃん、一つ結びの位置もうちょっとだけ高くしてみようよ」

 二人でちゃんの両隣を陣取る。雪絵が鏡をちゃんの前に置き、私はくしをちゃんに手渡す。私も雪絵も同じような飾り付きゴムをちょうど持っていたので、実際にやりながら教えることとする。教えるといっても一つ結びにしたゴムの周りに巻き付けるだけで、ものすごく簡単だしすぐできるようになると思うのだけど。
 ところがどっこいだった。ちゃん、ものすごくこういうのが苦手らしく、なかなかうまくいかない。途中で髪の毛が絡まったりうまく飾りにゴムを引っかけられなかったり。手先が不器用だと感じたことはあまりないので、単に慣れていないだけなのだろうけど……。ちゃんは恥ずかしそうに「こういうの付けるの苦手だから、付けてなかったんです……」と呟いた。
 一生懸命苦手を克服しようとしている。好きな人がくれたそれをきれいにつけたいから。そんな姿は本当に、純粋に応援したくなるものだった。ちょっとうらやましい、なんて思ったりもした。
 ちゃんに二人で必死にアドバイスを続けること約三十分、ついにきれいに飾りが上を向いて固定された。

ちゃん、ちゃん! きれいについたよ!」
「かわいい~! 似合う似合う!」
「ほ、本当ですか?」
ちゃんスマホ貸して、写メ撮ってあげる」

 照れくさそうに笑うちゃんからスマホを受け取って、飾りがきれいに映るように照明を気にしつつパシャ、と写メを撮る。「ほら!」とちゃんに写メを見せると、もう、言葉で表現しきれないほどかわいい顔をしていた。
 やっぱり恋は女を乙女にするんだなあ。そうしみじみ思いながらちゃんを見ていると、こっちまでなんだか嬉しくなってきた。「今度はちゃんの顔もちょっと映るようにがんばって撮る!」と意気込んでスマホを受け取ると、ちゃんは照れくさそうに「ありがとうございます」と私たちにはにかんだ。