darling

春季合宿11(k)

 かくれんぼ大会が開始して約三十分が経過すると、かなりの数の鬼ができあがっていた。赤葦は遊びには本気にならないタイプかと思っていたのだがそうではなかった。俺とを見逃したあと、怒涛のごとく部員を鬼へと変えていった。他の鬼たちが一向に見つけられずにいるのに赤葦だけは体中に目でもついているのかと思うほどの見つけっぷりだ。部活用のグループトークは赤葦の発見報告で埋まっている。
 ちなみに赤葦が俺たちを見過ごしたその五分後に別の倉庫で小見が見つかった。そのまた五分後に台所で雀田、その三分後に洗面所で猿杙、その八分後に共有スペースで白福、その二分後に男子部屋で鷲尾。レギュラーとマネージャー以外の部員のことも多数見つけているあたり、赤葦はかくれんぼマスターなんじゃないかと思うほどだ。なかなかのハイペースである。ちなみにその間他の部員からの発見報告はない。「こんなくだらねえ遊びは今すぐ終わらせてやる」、そんな意気込みがひしひしと伝わってくる仕事ぶりである。
 残るは俺とを入れて五人。俺たち以外の三人はどんなすごいところに隠れているのかと気になりはしたが、さすがに外に出ていくことはしなかった。結局俺は三十分、ずっとといっしょにこたつ布団で暖をとりながら談笑を続けていた。さっきからはが突然しりとりをはじめたので永遠に終わりそうにないしりとりを続けている。

「り……り……リトマス試験紙!」
「シリンダー」
「だ……だ…………大福!」
「クチナシ」
「木葉さんクチナシの花言葉知ってますか?」
「しりとりはどうした?!」

 はにこにこと笑いながらじーっと俺の顔を見続ける。クチナシの花言葉もなにも花言葉なんて一つも知らない。クチナシ自体花の名前は知っているけれどどんな花なのかさえ分からないというのに。けれど、がこんなににこにこと笑っているので、きっと良い意味の花言葉なのだろう。たとえばの表情のような。

「幸せとか?」
「木葉さん博識ですね!素敵です!」
「え?当たった?」
「私は幸せです、とかそういう意味の花言葉なんですよ」

 曰く、クチナシは甘い香りのする花なのだという。白い花がかわいらしく咲くことや花言葉から、男から女性へ贈る花というイメージがヨーロッパではあるのだとか。花なんて買ったこともない俺からすれば次元が違う話すぎてピンとこないけれど。

は好きな花とかあんの?」
「う~ん……リナリアとか好きですよ」
「聞いたことないわ~」
「木葉さんは好きな花とかありますか?」
「え~……」
「じゃあ、わたしにくれるなら何くれますか?」
にかあ……なんとなくひまわりとか? なんか似合うし」
「ひまわり! 好きです!」
「お~よかったよかった」

 満足のいく回答をできたようで何よりだ。やっぱり女の子という生き物は花には詳しいのか。若干感心しているとは「死神!」と笑顔で言った。

「なに、死神?」
「え、クチナシでしたよね?」
「……しりとりに戻るのかよ!」



▽ ▲ ▽ ▲ ▽




「というわけで、かくれんぼ大会勝者は木葉さんとということで終了です」
「お前らどこに隠れてたんだよ~強すぎだろ~!」

 木兎がやんややんや言うのを赤葦が抑えつつ、なんとも無表情なままの赤葦による司会が進行を続ける。「それでは勝者のお二人に賞品の授与です」と赤葦が言うと、マネージャー二人組が「はいどうぞ」と俺とに紙を渡してきた。

「木兎さんが用意していた賞品があんまりにもしょぼかったので急遽準備しました」
「赤葦ひどくない?!」
「隣町の映画館の割引ペア券です」
「それもしょぼくない?!」
「木兎さんのサイン色紙よりはマシだと思うんですけど」

 木兎がしょぼくれて見ていられないので謎のサイン色紙も受け取ることにすると機嫌が直ったようだった。その様子に息をついていると「ちなみに」と白福が俺とに渡した割引券を指さした。

「それカップル割だから二人で行ってね~」

 「この前友達と行ったときもらったんだよね~」と言いつつにやりと笑った。たしかにチケットを二枚くっつけるとハートができるようなデザインになっている。チケット売り場でこの割引券のハートを見せるとなんと三割引きになるそうだ。
 どういう反応をしていいのか悩みつつちらりとを見ると、ふつうににこにこ笑って「ありがとうございます~」と言っていた。まあ、なんかうれしそうだし、いいか。俺もつられて笑いつつ「さんきゅー」と言いつつ割引券を見る。

「え、これ期限あとちょっとじゃん!」
「そうなの~春休みで終わっちゃうから気を付けてね~」

 自分が予定が合わないからと押し付けたな?! あと一週間ないその期限に驚きつつも、まあ春休み内だし、部活のあとに行くとかオフに行くとかどうとでもできる。に「なんか今やってたっけ」と話を振ってみると「どうでしたっけ~」とゆるゆるな笑顔を向けられた。
 諸々の片付けをしていると雀田に声をかけられる。その顔がニヤニヤしているので嫌な予感がしたのだが、「映画さ」と脇腹を突かれた。

「オフの日にしなよ」
「え、なんで?」
「ばっかだよね~本当~」
「だからなんで?!」
ちゃんの私服、見たくないの?」

 得意げに笑われる。その言葉を聞いてはじめて白福がいかにいい仕事をしてくれたかが分かった。